ならずものになろう

少しは教育について話してみたくなりました。書き続けて考え続けてみたい。

ならずものになろう

うーん…読売新聞の新特集。

Questions?

教育に強いと自負する読売新聞がまた新しい連載を始めたようです。

その名も「読解力が危ない」。

限られた紙面なのであまり細かいツッコミをしても仕方ないとは思うのだけど、妙なことになっていないかは気になるところです。

今更、PISAの順位を言い出すか…

以前にも書いたけど、PISAの順位やスコアは簡単に数字が上がった下がったでは論じられない部分が大きい。

s-locarno.hatenablog.com

s-locarno.hatenablog.com

今回の読売新聞の連載はPISAの読解力のスコアが4位から8位に下がったことを用いて「読解力が危ない」と煽っているわけだ。

確かに2012年のスコアよりも22点下がっているのだが、読解力を中心に調査した2009年の調査と比較すると有意差がないので、センセーショナルなタイトルに比して本当に読解力が落ちているとは言いにくい。

まあ、煽りすぎですよね。

「問題文が理解できない」ということ

おそらく、今回の読売新聞の連載が最初に紹介している調査の話はこれだと思われる。

東大入試に挑戦するAI「東ロボくん」を開発中の国立情報学研究所・新井紀子教授(数学)が、中高生を対象に実施中の調査で、人間がAIより得意とされる読解力が「驚くほど低い」という結果が明らかになりつつある。(中略)

調査は、AIに入試問題を解かせるため、人が文章を読む時の過程を分析した新井教授が、「子供たちは読めているのか」という疑問を抱いたことから始まった。AIは問題を解けても、文章を正しく理解したり、具体例を挙げたりすることは苦手だ。新井教授は将来、労働者に求められるのはAIの不得意分野になるはずだとして、初見の文章の意味を素早く理解する力を調べ始めた。

http://mainichi.jp/articles/20160726/ddm/013/100/011000c

ちょっと正確な記述がないのでどの調査なのかはわからないが、おそらく内容としてはこのテストを指していると思う。

まだ、調査としては結果が出ていないので、この内容についてはこれ以上言及はない。まあ、妥当だと思う。

実際、「理解する」とはどういうことかは論じることが難しい。 

理解するってどういうこと?: 「わかる」ための方法と「わかる」ことで得られる宝物

理解するってどういうこと?: 「わかる」ための方法と「わかる」ことで得られる宝物

 

この本の中でも「読む」「書く」それぞれに「理解する」とは何かを子細に論じているのだが、結果的に大部の本となっていることからも、簡単に理解できる、できないをいうことはできないと思ってもらいたい。

結論が見え透いている…

が、この後に音真司*1氏の「学力低下」を煽るような文章を並べているところに意地汚さを感じる。音氏いわく

試験やリポートではSNSや日記のような文章を書いてくる。文の構造を理解せず、考えも整理できない。

「※個人の感想です」とつけるべき内容。本来は「書くこと」と「読むこと」は別に論じられる認知プロセスであるのだから、「スマホが悪い」という短絡的な主張をしたいための雑な主張だろう。

このあと、記事では「脱ゆとり」が効果を上げて成績が伸びたが、SNSの普及によって読解力が下がったと煽る。

「脱ゆとり」教育の効果もあり、日本の読解力は回復傾向が続いた。しかし、最近はSNSの普及に伴う短文のコミュニケーションが若者の間で急速に広がり、長文を読んだり、書いたりする機会は減っている。

ツッコミどころが多すぎる。「脱ゆとり」の効果を論証するには、前指導要領と現行指導要領が混在している前回と今回では比較ができるとは思わないし、読解力とSNSの関係が論じられるかは不明であるし、「長文を読んだり、書いたりする機会は減っている」というデータの裏付けはわからない。

学校教育に問題があるというとしても、現行の学習指導要領では「読んだり書いたり」をする「言語活動の充実」が謳われているわけで、スマホの普及の方が子どもの拘束時間の長い学校の授業よりも強い影響力を持っているという推論は筋が悪かろう。

国語の専門家がそれでいいの…?

今日の記事では、国語教育の専門家として高木展郎先生のコメントが次のように載せられている。

現代に求められる読解力は、思考力や判断力、表現力に通じる力だ 

これは現行の指導要領のキーワードなので教育にちゃんと関わる人は耳にタコである。

問題は次。

向上には新聞の社説のような論理構成の文章を書き写し、自分の意見を書くことが効果的だ。読書もただ本を読んで楽しむのではなく、『読んでどう考えるか』という学習にしないと読解力は育たない。 

新聞社の編集が入っているので、本人の発言がそのまま載せられているとは思わないものの、内容としてはかなり乱暴だろう。

ただ、気になるのが例えば高木先生の最近の本としては 

「これからの時代に求められる資質・能力の育成」とは

「これからの時代に求められる資質・能力の育成」とは

 
「アクティブ・ラーニング」を考える

「アクティブ・ラーニング」を考える

 
アクティブ・ラーニングを取り入れた授業づくり: 高校国語の授業改革

アクティブ・ラーニングを取り入れた授業づくり: 高校国語の授業改革

 

があるのだけど、これらの本を読むと「アクティブ・ラーニング」の文脈で「コンピテンシー」としての読解力を論じているので、上の記事のような「写経して考えれば読解力が伸びる」なんて雑なことをいうとは思わないんだよなぁ…。

中等教育に怪しく入り込んでいるものの一つに「天声人語の書き写しノート」があるけど、あれだって中学生の語彙力や理解力からすれば「写して感想を書けば読解力がつく」なんて暴論もいいところで、そんな話を推奨されては現場としてはたまらない。

高度な認知の仕方として「関連づけて読む」ということの重要性は分かるし、そういう読む方略をメタ認知させていくことの重要性はわかる。そういう文脈で話されたのであれば上のコメントもわかるのだが、少なくとも文字面からはかなり暴論を言われている。

どうなるこの連載

初回からかなりの暴論を書きなぐっているこの連載。

一体どんな方向に転がっていくか追いかけてみようと思います。

コメントお待ちしています。

続編

s-locarno.hatenablog.com

まとめました。

*1:自分は何者か不明なのに大学や大学教育を罵って専門家ぶっている人という認識である。

Copyright © 2023 ならずものになろう All rights reserved.