ならずものになろう

少しは教育について話してみたくなりました。書き続けて考え続けてみたい。

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高校におけるリーディング・ワークショップ実践~振り返りその3・カンファランスのための「読書記録」について~

Reading

リーディング・ワークショップをの振り返りの第3弾。 

s-locarno.hatenablog.com

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今回は「カンファランス」について話したいと思ったのですが、カンファレンスに備えて実は色々と授業外で作業しているんですよ…という話。

特に生徒の成長を評価するために必要な「読書記録」に関わる話をしていきます。

読書記録はカンファランスの手がかり

あまり余計なことをさせずに「ひたすら読書に集中してもらう」ことを目指した今回のリーディング・ワークショップではあるけど、「ただの放置ではなくちゃんと指導をしよう」という思いはあった。

その指導のための手立ての一つとして、「読書記録」を残してもらうことだけは生徒に指示した。読書記録も本当は好きな形で残せばいいと思っているのだけど、自分の方に自由な形式なものを把握して指導する自信がなかったので、自作の「読書記録」用紙を配布した。

なお、この読書記録の形式は"Reading Zone"で紹介されていたものを多少アレンジしたものだ。 

The Reading Zone, Second Edition: How to Help Kids Become Skilled, Passionate, Habitual, Critical Readers

The Reading Zone, Second Edition: How to Help Kids Become Skilled, Passionate, Habitual, Critical Readers

 

画像をアップロードしておくのでコメントをいただけると次回に生きるので助かります。

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表紙。表紙の「リーディング・ワークショップのルール」の内容も"Reading Zone"のP.132の内容の改変。と言っても、貸し出しに関する事項を司書さんのことに変えた点が大きい*1けど、それ以外は平易な形にまとめているだけで内容としてはほぼ同じ。

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読書記録の欄。二つ目のルールがあるのはご愛敬。初めての試みなのでちょっと勇み足だと思ってもらえれば(笑)

こちらのリストの形式もやはり"Reading Zone"で紹介されていた(P.134)内容のアレンジ。個人的に重要だと思うのが「読むのをやめた日」を書く欄を設けていることだ。ここに明示的に「やめてもいいんだよ」というメッセージを持たせることで、読むのを中断することに対する心理的なハードルを下げる効果が高いように感じる。

実際の運営ではこのリストの記入はかなり緩やかに求めた。強制まではしていない。ただ、最後のまとめとして「できるだけ詳しく書いてね…」とは求めたので、最終的にはそれなりに書いてきている。

本当はジャンルとレベルの判断についてはリーディング・ワークショップの肝なんだろうと思うのだけど、短期的な実践ではちょっとそこまで手を出せなかったので残念だ。

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リーディング・ワークショップを終えた今だからこそ強く思うのが、この「いつか読みたい本リスト」をどれだけに豊かにしてやれるかということが非常に重要なのだと思った。やはり"Reading Zone"でも何度か「いつか読みたい本リスト」に本を追加していくという話が出てくるのには、それなりに意味があるんだなぁと思う。

まったく自分は気づいていなかったのだけど、「読書」の前提として「読むべき本がある」ということは非常に重要だ。実は本を「読書」という経験がかなり少ない生徒にとっては、いざリーディング・ワークショップが始まっても選書に苦労することが多かったようだし、授業外での読書が増えた要因の大きなものに「読みたい本が見つかった」ということを挙げる生徒が少なくなかった。

「読みたい本がある」という状況が読書に対する生徒のハードルを下げることや時間を割いて読書をしようという気持ちにさせることに繋がるのであれば、より積極的に「読みたい本がある」という状況を作ることに取り組んでいくべきなんじゃないかと思う。

ただ、難しいもので、これまでだって「読書案内」を作ったりビブリオバトルような取り組みで本を紹介したりという実践は枚挙に暇はないけど、それが「読みたい本」につながっているかと言われるとやや疑問だ。

リーディング・ワークショップで「読みたい本リスト」が育っていくのに対して、普段の読書案内が全然上手く読書を導かない違いはどこにあるのだろう?

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最後のページは「ジャンル」と「レベル」について。

本当はミニ・レッスンでちゃんと伝えなければいけないことだったのだけど、読み合わせた程度しか指導できなかったのは残念だ……。

もちろん、上の内容も"Reading Zone"を参照している。

カンファレンス不足を補う「大福帳」

どうしても一回の授業でカンファレンスに回れるのはクラスの半分。

だから、残りの生徒については「大福帳」を使って状況を把握するようにしていました。

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以前にも紹介した大福帳のフォーマット。この各回の一行目を「いま何読んでいる?」という質問に変えて配布。

生徒からは本の感想が挙がってきたりおススメの本を尋ねられたりと読んでいてなかなか楽しい。また、個人的に感心したのが自分の読書の習慣がどのように変化しているのかを自己分析して文章にまとめて報告してくれる生徒が少なくなかったということだ。

一年間継続して大福帳を書いてきたので、自分の変化や感じ方を指示しなくても書くようになっているのは、その効果なのかもしれない。

例えば「最近は鞄の中に本をいれて持ち歩くようになった。移動中に手に届くところに本があれば自分でも本を読むのだと発見した」「最近は本屋に行くとベストセラーの棚に注目するようになりました」「自分にも読める本があるのだと気づいた。今まで進められた本が全然つまらなかったので自分は読書が苦手だと思っていたけど、本を選べばよかったのか」といったような内容が書かれていた。

恐ろしいのは「〇〇という本は読んだことありますか?読んでなければ今すぐ読んで感想を来週までに書いてください」と教員を脅かすようなコメントを書いてくる生徒(笑)こうやって紙上読書会をするのも楽しいんだなぁと逆に教えてもらえました。

ちなみに、大福帳の内容について必要があればカンファランスの記録を残しているEvernoteのノートに記録して活用しています。すべての内容を転記したりスキャンしたりするのはやや手間であるしカンファランスのときに言いたいことに迷ってしまうので抜粋してまとめ直して記録しました。

なお、大福帳の授業での活用の仕方は過去の以下の記事をご覧ください。 

s-locarno.hatenablog.com

実際の運用の様子

色々なものを使っているようですが、実際の運用は非常に緩やかです。強制で提出を追及してもなぁ…という気持ちが先に立ったので提出も強くは求めず。

まあ、最後には「どれだけ変化があるのか」ということを知りたかったので全員に提出を求めたので結果的には慌てて埋めて提出してきた生徒多数ですが(笑)

緩やかに使ってもらえればいいかなぁと思っていたので、活用していた生徒はびっしりと記録を取っていましたし、放置の生徒はひたすら放置気味……。

ただ、まあ、カンファランスで書いてほしいということを少しは言ったので、しぶしぶ書いた生徒はいるようです。

結果的に、書いてみると「あぁ…自分の読書が結構偏っているんだなぁ」ということに気づいた生徒は多いようで、読書を豊かにするということや読書を広げるという指導のためには結構、記録をとらせるということは重要なのかもしれない。

また、これらの記録は何のために書いているのかと言えば、すべて「カンファランス」のためだ。

実際に一人一人の生徒と話していくときに、丸腰で話すことはかなり難しい。どんな話題が来るかということやどんな本を薦めたら食いついてくれるかということを下準備するためにはこれらの記録が結構重要だと感じる。

また、リーディング・ワークショップをやっている時期は、教室で生徒がどんな本を読んでいるかということがかなり気になりました(笑)リストに書くのを面倒がって後回しになっている生徒の実態を掴むのは休み時間の読書の様子を眺めたりしないと無理でした(笑)

やっぱり先行実践は優秀

今回の記録用紙については"Reading Zone"の改変であり、結果的に"Reading Zone"の内容を追試したわけなのだけど、そこで感じるのは"Reading Zone"で紹介されている内容は非常に洗練されていてシンプルで無駄がなく効果的なんだなぁということ。

上のリストについても、何でもかんでもてびきしたくなる悲しき国語科教員からすると「ざっくりしすぎ…?」と思ってしまうのだけど、実際は全然そんなことはなくて、少ない労力で高い効果があるんだなぁと感じます。

その合理性は自分がやってみないと全然わからないんだなぁとも同時に発見。もちろん、やってみると自分の生徒に必要なことや不要なことも見えてくるのだけど、それでも、これだけシンプルな形で簡単にまねできるのはいいなぁと思いました。

もし、同じようなことをされたかたがいましたら、ぜひ色々教えてください。どんな効果が上がるのか興味あります。

*1:図書館での貸出なのであまり細かいルールを言わなくてよかったので

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