以前に紹介した「大福帳」の使い方に関する紹介記事です。
今回は、授業前までの準備と授業での運用の様子を書きます。授業後の処理などはまた、後日紹介します。
フォーマットと授業前の準備
自分が利用している大福帳は早稲田大学人間科学学術院の向後千春先生が公開されている大福帳テンプレート を参考に一枚に五回分の授業の振り返りを書けるように自作しているものです*1。
色々な人から「いきなり振り返りを書きなさいと言っても、生徒はなかなか書けないんじゃないのか?」と問われることが多いのですが、もちろん、大福帳をいきなり渡して書けとはやりません。
まず、大福帳のテンプレートに「こんな要素について書くとよいよ」という項目を書いてあります。必ず、四行で書くことを指示しているのですが、書けない子は、最低でもその項目から四つ選んで箇条書きにするような形でまとめることができます。
また、大福帳にどんなことを書いてほしいのかということや書き方をまとめたプリントを初回の授業で配布して内容を読み合わせるようにします。そこで、実際に一緒に大福帳を記入してみたり、たとえば四行日記で使われているような「事実→気づき→反省→宣言」という観点を教えてみるなどしたりして、とりあえず、書いてみようという気にさせています。
つまり、「なかなか書けない」ということが、「何を書いたらよいかが分からない」ということに由来しているため、あらかじめ「このような観点を書き続けてほしい」というメッセージを生徒に分かるように伝えます*2。
また、後述する「振り返りまとめノート」を考査ごとに作成してもらうことを伝えます。
授業中の運用
大福帳の記入の時間は授業の最後5分間としています。中には、熟考して長く文章を書きたい生徒もいるのですが、とりあえずは、時間内にきちんと書ききるという習慣をつけてもらいたいという意味も込めて、5分で時間を切って書かせています。
この5分という時間は、短いように見えて、授業の組み立てからするとかなり重い時間になります。
前回の記事でも書きましたが、授業時間の1割となるため、年間の総授業数から考えると、かなり長い時間を記述に充てていることになります。
ですから、大福帳を記入するための時間を捻出するために、授業計画の無駄を精査していくことになります。
細かいことでありますが、授業前の着席を徹底を促したり、自分の話す言葉をひと言でも短くなるように考えたり、時間の捻出にはかなり気を使います。
また、生徒がきちんと大福帳を記入できるためには、「その授業でどのようなことを学んだのか」が明確な授業でなければいけません。だから、授業内容についても「ちゃんとねらいがはっきりとしているか」ということや「この活動の意味はちゃんと伝わるだろうか」ということ、つまり「ちゃんと大福帳を記入してもらえるか」ということをかなり考えて授業を作るようになります。
本末転倒に思えるかもしれませんが、大福帳に記入してくるコメントを読んでいると、「この授業の意味がよく伝わっていないな」と感じるときは、生徒のコメントが当たり障りのないような、授業に参加していなくても書けるような漠然としたものになるということを実感として持っています。
現在、悩んでいることとしては大福帳をどのタイミングで返却するかということです。生徒としては質問などを書いているので、そのコメントを早く読みたいということもあって、授業の最初に返してほしいようですが、時間を決めて書くということを狙いにしていることや、生徒が自分の返信するコメントを頼りにするようにしても困るため、現在のところは、書かせる直前に配布するようにしています。
実際、生徒はどのようなことを書いてきているか
生徒がどのようなコメントを書いてきているのかということもよく質問されるので、以下に時期ごとの変化を書いておきます。
初回授業から一か月くらいまで
当然ながら他人行儀なところからスタートします(笑)
ですから、このくらいの時点では、「よろしくお願いします」とか「〇〇がわかりました」というような程度の内容の記述で、本当に「書くことに慣れる」という時期です。
一か月後から初回考査くらいまで
この時期になってくると、大福帳を通じたコミュニケーションがかなり行われるようになっているため、生徒のほうから色々な話が出てきます。
たとえば、おススメの本を紹介してきたり、教科書の本文の内容についての質問をしてきたりするなど、こちらからの返信を楽しみにする子が増える印象です
初回考査後以降
自分は考査ごとに大福帳振り返りノートを作成させているため、その作成の経験もあって、かなり自分の問題意識やわからなかったことなどを大福帳にまとめてくるようになります。
また、「自分の言葉で自分の考えを書くんだ」ということや「先生を思わず説得するような鋭いコメントを書いてみるんだ」ということを煽る(笑)ように自分がなるので、一生懸命、生徒が自分の言葉で自分の考えを書こうとしていくようになります。
一方で、完全にプライベートな交換日記になっている子もでてきますが(笑)
次回は、授業後以降の処理について説明します
大福帳を導入するにあたって、一番気にかけているのは「書くことがなくて辛い」という思いをさせないことです。
この一番の原則を守れないと、せっかくの振り返りが非常につまらなくて、苦痛な時間になります。
また、「書くことがない苦痛」というものは、教員の想定以上に苦しいものです*3。
大福帳は、「表現したことには反応があってほしい」という生徒の当たり前の心情*4を大切にして、「書かれたことがちゃんと読まれることは楽しい」という気持ちを育てることで、意味のあるものにしていくものだと感じています。
続き