ここ数日何度か話題にしている本の読み方に関する話。
文法の話にヒートアップしてしまって、その後、読んでいなかった『教育科学国語教育』。
この後半のページに京都女子大学の井上一郎先生の特集記事が載っているのを見逃していましたが、この内容がまさに本の読み方に関することでした。
要領よく読み続ける読書術とは?
「アクティブ・ラーニング時代における国語教育の基礎・基本」という連載記事として、今月号では「本を要領よく読み続ける読書術―よくない読み方・よい読み方―」(PP.106-109)という記事を書かれていました。
その中では、最近、自分が考えている「どうやって読むのか」ということについてまとめてありました。
そこでは「よくない読み方」と「よい読み方」が表になって対比されて述べられていました。すべてを引用してしまうと憚られるので、「よい読み方」として挙げられていることを以下に挙げてみると…
(P.106)
- 速さを上げて黙読しよう。
- 解釈力を高め、構成に沿って塊で読もう。
- 知らなくても飛ばして読み、繰り返し出てくる大事な言葉だけ調べよう。
- 立ち止まらずどんどん先に読んでいこう。
- 重要な部分と付加的な部分を区別し速さを変えて読もう。
- 目的に合わせて要領よく読もう。
- 目的を明確にし、短期間で読もう。
- 並行して複数の本や資料を読もう。
- 自分の発想を豊かにするように読もう。
- 並行して他の領域の本を読もう。
- よい本は繰り返し読もう。
このリストを眺めているとピンとくる人はいるかもしれない。国語の雑誌ということもあるけど、かなり指導要領を踏まえているような印象を受けるリストになっている。
例えば、中学校学習指導要領の「国語」の「読むこと」の目標を見てみると…
C 読むこと
(1)読むことの能力を育成するため,次の事項について指導する。
ア 文脈の中における語句の意味を的確にとらえ,理解すること。
イ 文章の中心的な部分と付加的な部分,事実と意見などとを読み分け,目的や必要に応じて要約したり要旨をとらえたりすること。
ウ 場面の展開や登場人物などの描写に注意して読み,内容の理解に役立てること。
エ 文章の構成や展開,表現の特徴について,自分の考えをもつこと。
オ 文章に表れているものの見方や考え方をとらえ,自分のものの見方や考え方を広くすること。
カ 本や文章などから必要な情報を集めるための方法を身に付け,目的に応じて必要な情報を読み取ること。(強調下線は引用者)
冗長になるので中学校の指導要領だけにしておくけど、小中高のすべてを眺めていけば、大体、上で書かれている「よい読み方」に対応する目標は見つかる。
もちろん、指導要領の方が抽象的で含みのあるあいまいな表現になっている部分もあるが、指導要領の内容を具体的な「技」という形にリスト化するのであれば、こういうリストになるようなぁと納得できるところだと思う*1。
授業を振り返ると…
このリストを眺めてしみじみ思うことは2点。
第一に、「よい良い方」にせよ「指導要領」にせよ「精読をしなさい」という項目はないということだ。もちろん、「必要に応じて詳述する」などの目標が挙げられていることからも「精読」が必要ないということではないが、「普通の」国語の授業としてイメージされるような国語の授業には精読や読解の指導に随分偏っていないかと感じてしまう。このあたりの事情は入試問題も絡みそうな話なので簡単にはコメントしにくい。さすがに入試問題でななめ読みってできないよね……。
第二に、「繰り返し読む」という観点については、国語の授業ではなかなかないということだ。一つの教材にものすごい時間をかける割には、同じ文章を再び読み直すということはほとんどしない。一度内容が分かった文章からは学ぶことはない……と言わんばかりの人もいるしね。本来、読者である子どものもっている知識や読書経験が変わってくれば、その文章自体の位置づけが変化するだろうし関連させられる知識が分かるのだから読み方だって変わってくるだろう。そうした再読によって自己の変容を振り返る可能性もあることを考えれば、もう少し再読の価値は認められていいのではないかと思う。
このあたりの話は最近一押しの『読んでいない本について…』の序章の部分に関係しているので、興味ある人はぜひ読んでみてほしい。
もう一つの観点としては「目的に合わせて」というところがもう少し重く見るべきかなぁと。いわゆる「真正の課題」なんていう言い方をするけど、まがい物の与えられた課題のための教材の読解というのは、日常の読書とは非常に離れてしまっている。
まさに「コンテンツベース」という観点から「コンピテンシーベース」というような話になるわけだけど、果たして国語科が「羅生門」や「走れメロス」を教えないなんて決断をして、もっと目的に合わせて好きに読ませようという方向になるかは…まあ、厳しいだろうな。
このリストを生徒に示す?
このリストを生徒に渡して気を付けさせながら読ませるべきかという点については個人的にはあまり乗り気ではない。
おそらく、リストにして渡せばアリバイとしては成り立つのだろうけど、与えられた生徒の側からすれば窮屈に思えるのではないかと感じる。
要するにそれぞれの技がどのような文脈で必要となるのかということは、非常に具体的な話であるわけで、おそらく無理に使わせることが目的にならないようにしないといけないかなあと思う。
ただ、個別のカンファレンスなどの時にこのリストを示してどうやっていけばいいかということを考えさせるという利用法はあるかも?
このリスト、どうやって使えばよいと思いますか?
*1:指導要領を踏まえて井上先生が作られているのか、指導要領が優れているのかはわかりません。