先日、ネットの読書クラスタ界隈を賑わせていたのが、読書猿さんが著書を発売したということだった。
アイデア大全――創造力とブレイクスルーを生み出す42のツール
- 作者: 読書猿
- 出版社/メーカー: フォレスト出版
- 発売日: 2017/01/22
- メディア: 単行本
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ご本人の紹介記事が圧巻過ぎて、もはや自分がコメントしたり書評したりする必要性をまったく感じない。
だけど、興味のない方や読書猿さんを知らない方向けに、個人的な興味に基づいてひっかかった話を紹介しよう。
圧倒的な情報量に自分の不勉強を痛感…
読書猿さんのブログを読んでいれば、張り合おうなんてばかばかしくて思いつきもしないのだけど、それでもこの本の圧倒的な情報量を目の前にしてしまうと、自分の不勉強を改めて自覚させられてしまう。
個人的にこの本の白眉だと思う点が巻末にまとめられている「アイデア史年表」だと思っている。古今東西のあらゆる「発想」に関わる出来事を25ページに渡ってコメントと本文へのリンクとともにまとめられているのだ。
自分も作文教育などのために興味本位で少しはレトリックに関する文献を読んだり言語に関する本を読んだりしていたけれども、そんな寝言はもうこの年表を目の前にしたら二度と言えません。
確かに知っているものもあるんだけど、見落としていたり発想法として使えるのかということに気づいていなかったりそもそも全くの初めましても山ほどあって……この年表の中で、興味のある文献を追いかけるだけでも莫大なエネルギーを使いそうであるよ…。
ただの実用書ではない
この本がただの「発想法」の寄せ集めであるのであれば、今更、わざわざ手に取って読もうとは思わなかった。
筆者曰く
本書は、〈新しい考え〉を生み出す方法を集めた道具箱であり、発想法と呼ばれるテクニックが人の知的営為の中でどんな位置を占めるかを示した案内書である。
と述べ、また、
本書は、さまざまな発想法を集め、まとめるだけでなく、その根をたどり、横のつながりを結び直すことにも努めた。
というのも、昨今のアイデアに関する書籍を眺めるに、紹介されている発想法が孤立した営みとして扱われ、他の知的営為とのつながりを取り上げることが稀であるように思えたからだ。
と述べるように、それぞれの発想法が有機的に関連し、一つの方法で育てたアイデアが他の方法で成長していく可能性も感じるし、また、「発想」ということに先哲たちが費やしてきた熱情を感じ取ることができるのもよいところだ。
もちろん、その一つ一つのアイデアを心躍る形で表現しているのは、読書猿さんの博覧強記の記述である。
巷にあふれる「アイデア本」が筆者の自慢話に終始して、あらゆるものが一つの方法で万事うまくいくというような書き方をしているのに食傷気味な人ほど、この本の古典の関わり方は魅力的に映ると思う。
なお、本書の一番目の発想法は「バグリスト」なのだけど、そのリストの例として、今までのアイデア本のバグについて羅列されているが、非常に辛辣なのは笑った(笑)
一つ一つの項目が面白い
この本は一つ一つの項目は確かに「手法」として紹介されているものの、それがただの無味乾燥な羅列ではない。
一つ一つに具体的な例とともにレビューという形で先人たちのエピソードが添えられている。その一つ一つを読んでいくだけでも、色々なアイデアが湧いてきそうな感覚さえある。
例えば、最近、色々なところで耳にする「セレンディピティ」であるが、もちろん、本書でも紹介されている。
ここで質問だが「セレンディピティ」という言葉の生みの親は誰だろう?どんな由来の言葉だろう?「セレンディピティ」を意識するためにはそのような情報は別になくても構わないけど、これだけ色々な場所で耳にする言葉だけに、やはりこう問われてしまうと由来が気にならないだろうか?
情けない話だが「セレンディピティ」の由来はWikipediaに書いてあることくらいしか自分は知らなかった。
たぶん、こうやってさりげないエピソードが配列されていることによって、自分は同じように何かを考えるときにそのエピソードを思い出して、アイデアの種にしていくのではないかと感じる。
「セレンディピティ」の由来についての話が気になった人は……この本を買おう(笑)
また、個人的に好きだったのが、42の手法の一番最後に「夢見」を挙げていたことだ。「夢」でアイデアを得るためにはそれなりに物事を考え続けていることが前提なのだけど、そんな前提をすっ飛ばしても「人間の発想は自分が気付かないレベルで無限に広がっている」というような前向きなメッセージが感じられる。
授業に使えるかなぁ…?
授業に使えるかと言えば、ミーハーに紹介するのはいいだろうけど、これだけでは授業にはならない。
ただ、色々なアイデアの出し方があるからこそ、インベンション指導の際に教員が参照してみるなどの使い方はできるかもしれない。ただ、書いてあることをそのまま使うのは、たぶん筋が悪い。
やはり、アイデアを出していくことは知的な体力を使うことだ。形が重要なのではなくて、その時々に必要なことが選べることだ。もっと授業向けに書かれている本だって教室ごとに加工が必要だって感じる。
子どもの思考が見える21のルーチン: アクティブな学びをつくる
- 作者: ロンリチャート,カーリンモリソン,マークチャーチ,Ron Ritchhart,Karin Morrison,Mark Church,黒上晴夫,小島亜華里
- 出版社/メーカー: 北大路書房
- 発売日: 2015/09/24
- メディア: 単行本
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だからこそ、授業で活かしたいなら使いやすい形に加工していく必要はあるよなぁと思う。たぶん、そのまま何も考えずに出すような様子を見たら「本当にその本を読んでアイデア出したの!?」と突っ込むぞ(笑)
ただ、面白い本なので机上に置いて、授業のアイデアに行き詰った時に使ってみたいなぁと思います。