ならずものになろう

少しは教育について話してみたくなりました。書き続けて考え続けてみたい。

ならずものになろう

読売新聞「読解力が危ない」を批判する

Danger Zone

最近、色々なことに噛みついている人みたいなので嫌なのだけど、変なもんは変だと言いたいだけなのですよ……。 

s-locarno.hatenablog.com

紙面が限られているので内容として不正確になるのは仕方ないのだけど、それ以上にやっぱり変だなぁと言っておかないと気が済まなくなるような内容でした。

連載の構成

今回の連載の各回の見出しは以下の通り。

  1. 問題文が理解できない
  2. 新入社員に読書感想文
  3. SNSに没頭 長文読まず
  4. 本離れ防げ 魅力伝える
  5. 考えて表現 新聞が効果
  6. 新たな指導法 世界が模索(+16面に特集記事)

本日の最終回の連載には16面に特集記事がついていた。その見出しの内容は以下の通り。

  1. 「楽しい」読書体験から(角田光代)
  2. 向上の担い手は学校(無藤隆)
  3. 指導要領「喫緊の課題」
  4. 学校図書館 蔵書目標遠く
  5. 新聞の見出しに挑戦 都内の小学校
  6. 新聞読むほど好成績
  7. 高校生SNS利用82.9%

各回の内容 

各回の内容の要約は以下の通り。

問題文が理解できない

PISAの結果などを紹介し、子どもの読解力が落ちていることを主張。その原因がSNSではないか述べ、横浜国立大学の高木展郎先生の「新聞の社説の書き写しなどが有効」というコメントを紹介。

新入社員に読書感想文

読解力の低下が新社会人にも及んでおり、読書感想文などに取り組ませることで読解力や表現力をトレーニングする企業があることを紹介。新人の読解力の低下にスマホやSNSがあるのではないかと触れる。

SNSに没頭 長文読まず

中高生がスマホに熱中してることを紹介。ネット依存や高校生の読書率が減っていることを指摘し、専門家のスマホが脳に悪影響を与えるという意見を紹介。

本離れ防げ 魅力伝える

ビブリオバトルを絶賛。若い世代の本離れが深刻だということを指摘し、新潮文庫の「ワタシの一行大賞」や「高校生直木賞」の取り組みを紹介。最後にビブリオバトルの発案者である谷口忠大先生のインプットだけでなくアウトプットが重要だという指摘を紹介し、「本を読み、自分の考えを表現する」ことが「読解力の向上につながる」と結論付ける。

考えて表現 新聞が効果

学校で新聞を使って授業している様子を紹介。東京都北区教育委員会が「新聞が読解力向上に有効」だと着目したという事例を紹介。また、大学入試での課題文が長文になっていることや書かせる量が増えていることを紹介。なお、タイトルには「新聞が効果」とあるが、新聞が効果的だというデータはこの記事には書かれていない。

新たな指導法 世界が模索

かつて教育大国として有名だったフィンランドのPISAの順位が落ちたことを紹介し、そのフィンランドでも授業改善が行われていることを紹介。一方でトップだったシンガポールの事例を紹介し、本連載を「子供たちの現状をしっかり把握し、効果的な対策を打ち出す必要がある」と結ぶ。

16面の特集記事の内容

「楽しい」読書体験から(角田光代)

自分自身の読書体験や最近の「ワタシの一行大賞」や「ビブリオバトル」に対するコメント。ビブリオバトルのような方法は苦手だという。「質」を意識した読書をして欲しいと締める。

向上の担い手は学校(無藤隆)

読解力の広がりを感じていることを述べ、学校の国語の授業で「実用的な国語力」を育成することの重要性を主張。また、大学生のレポートがSNSのようになっていることや親がスマホをいじりながら子どもの相手をすることで子どもの語彙量に影響することなどを説明。教員の指導力が問われているとまとめる。

指導要領「喫緊の課題」

PISAの順位低下を受けて読解力が喫緊の課題とされ、「討論や発表を重視した「アクティブ・ラーニング」の授業では新聞や統計資料を活用するべきだ」と12月の答申で述べられていると紹介。

学校図書館 蔵書目標遠く

学校図書館の蔵書数が増加傾向にある一方で目標達成できていないことを紹介。また、新聞がちゃんと学校に置かれていないことも紹介。

新聞の見出しに挑戦 都内の小学校

学校の授業の事例紹介。記事を読んで見出しをつけることで文章を要約する力もついたという。NIEコーディネーターの関口修司氏は「これまでの国語指導は文学的文章を読み込むことが中心だったが、今求められている読解力は、新聞などの説明的文章を読んで理解できる力だ」という。

新聞読むほど好成績

PISAの結果を紹介。

高校生SNS利用82.9%

スマホで高校生がニュースを見ないことを紹介。

この特集はマッチポンプ?

上のまとめ方も偏りがあるかもしれないので自分で記事は探してみてください。

しかし、こうやってまとめてみると改めて感じるが「子どもたちはスマホを使ってバカになっているから、新聞を読んで鍛えなおしてやるべきだ」というような下卑たストーリーが透けて見える。

どうしても新聞は紙面が限られているので、おおざっぱな情報を紹介することしかできないものだと割り切って捉えるべきだが、それでもここまで露骨に偏りがあると公平な説明だとは言えないだろう。

言うなれば「読解力が危ない」などといって、必要以上に不安を煽ったうえで、読者に受けのいい「スマホ叩き」を展開し、救世主として「新聞」を使わせるように誘導する……。自分で火をつけて自分で消化するという典型的なマッチポンプだ。

内容に関する問題点

新聞だといことを割り引いても看過できないであろう点を以下に指摘する。

第一に、データを都合よく扱いすぎである。例えばPISAの順位や得点については何度か論じているけど単純に数字の変化を追っていても読解力の変化は追えるものではないし、そもそも日本の読解力は上位グループに属しているし、試されている読解力も一般的に思いつくような読解力とはおそらく重ならない部分は多い。要するに、普通の読者には簡単には検証できないデータを都合よく弄するあたりに怪しさがある。

第二に、現状の国語教育について無知、もしくは歪曲して伝えすぎである。例えば、NIEコーディネーターコメントでは「これまでの国語指導は文学的文章を読み込むことが中心だった」とあるが、決して国語科は文学的文章に偏ってはいない(むしろ、学年が上がるほど説明・評論寄りになる感じはある)し、少なくとも現行の指導要領になってからは、かなりPISA型の読解力に対応する形で様々な文種が取り扱われている。同じ理屈で無藤先生のコメントも国語教育について雑である*1。例えば「要約」の技術指導などについても指導要領で明確に記されている。また、「実用的な国語力」というのもかなり怪しい。「文学的文章=非実用的」「説明的文章=実用的」という構図であるのであれば、かなり乱暴である。

第三に、「読解」と「表現」が上手く整理できずに書かれていることだ。例えば、ビブリオバトルや読書感想文がかなり持ち上げれて紹介されているが、これらの活動はどちらかと言えば「表現」寄りの活動である。もちろん、「読解」と「表現」は表裏一体であるので、二つを割り切って論じることは難しいのだけど、「読解力が危ない」と煽っておきながら、「読解」から論点をずらして「表現」に関する話を強調するのは、卑怯だろう。しかも、ビブリオバトルや読書感想文のように現場の教員の受けの良いものを選んでくるあたりも嫌らしい。

個人的にビブリオバトルについては思うところはあるが、端的にまとめるのであれば、「本の紹介をゲーム感覚で楽しんでやるもの」であって「強制されたり大人数の前でやるものではない」し「読解力や表現の指導にはならない」と思っている。

その意味だと角田光代が「ビブリオバトルが苦手だ」とカウンターパンチを入れていたのは面白かったが(笑)

イメージで語られる教育

読売新聞は自分のことを「教育に強い」と思っている節がある。かつて「読解力が危ない」というようなタイトルで「大学再生」という特集をやっていたことがあるがそれもひどい記事であった。

参考

blogs.yahoo.co.jp

結局、イメージや経験則で適当に語られるのが教育だ。それをマス・メディア、それも新聞さえもやる。それどころか教育学者を名乗る人間も意図的に歪曲して論じる。 

s-locarno.hatenablog.com

こうなってくると何を信じたらいいかわからない……と言われるかもしれない。いや、その前に何が問題なのかは気づきにくい。こうやって表に出てくることは共感されやすく煽りやすい内容ばかりだから。

togetter.com

これも批判しているように見えて、同じ土俵で戦っているだけだからね…。

前途多難の国語である。

*1:ただ、この前の高木先生と同じく、無藤先生の著述を読むとここまで国語に無知なことを言わないのではないかという気はするんだが…

Copyright © 2023 ならずものになろう All rights reserved.