今週末はプレミアムフライデーだそうですけど、そんなものはなかった。ものよりも思い出な教員生活です。
進路に関する面談を少しずつ始める高校二年生。生徒に向けて大学の怪しげな話をするのもうんざりしてきているので、大学生活でどんなことを得られるのかということを紹介してもらえるような本がないかと思っていたのですが、今月に新刊として出た本書が面白いと思いました。
普通の大学生活の指南書
世の中の「大学での勉強の仕方」を指南する本は、大学の先生が書いているということもあって、理想的かつ模範的な大学生を想定しすぎているような印象はありませんか?
世の中の大学生が本に書いてあるようなことを淡々とこなすことができるのであれば、大学は人生の夏休みだとか大学はテーマパークだとか揶揄されることもなく、世の中にウェーイと喧しい若者が恥をかいて大人になっていくようなこともなく、春の心はのどけからましと思うのです。
一方で本書は「普通の」大学生の大学生の普通の大学生活を充実するための手引きが書かれているように感じる。
本書は次のような文章から始まる。
あなたは大学を卒業した後にどのようなプランを持っていますか?
具体的なことはわからないけれど、どこかの企業で働く、とぼんやりとイメージしているのではないでしょうか。そんなあなたに伝えておきたいことがあります。(P.7)
ここからも察していただけるかもしれませんが、普通の「大学生活の指南書」が比較的アカデミックに寄っていて、「就職」だとか「バイト」だとかの話はあまりしてくれません。
しかし、本書は、いきなり「働く」ということから話題を始めているのが、よくある大学生活の本とは毛色が違うように感じられる。そして、上の問いに対して次のように応えている。
それは、大学は働き方そのものを教えてくれない、ということです。
適性を探して、強みを活かせる就職先を見つけてくださいね、というのが大学です。(同上)
もちろん、このような言い方をしているけれども、「大学=就職予備校」だということを言いたいのではなく、
働きながら生きていくことになる八〇年という長い人生を自らの力で切りひらいていく準備期間に、大学を卒業してからどう働き、どのようにして歩んでいくのかを考え、模擬練習を重ねておいても損はありませんよね(P.9)
と述べるように、大学での学びを生き方に結びつけるという観点から書かれている。
この観点は個人的には「アクティブ・ラーニング」が叫ばれるようになった文脈を重ねて読んでもいいと思う。すなわち、大学から社会へのトランジションという発想だ。
つまり、学びをどのように社会につなげていくかということをきちんと考えようとう話だ。この前
という記事を書いたけど、きちんと働けないということの厳しさ、働くと学校をつないでいくことの重要さを感じるために、この本の「大学での学び」と「はたらく」をつなげようという観点は非常に共感できる。
「バイト」や「インターン」の意味もわかる
本書は「講義の受け方」や「論文の書き方」についても説明がされており、スモールステップ式で誰にでもやさしく実践できることを紹介しています(ある意味で目新しさがないふつーのことですが…)が、それ以上に他の本があまり取り上げないような「バイト」についての説明や「インターン」の意味についての説明があるのは面白い。
大学はぬるま湯です。遅刻しても、欠席しても、特に何も言われません。注意を受けても、その場限りのものです。
大学の外に出て、インターンとしてビジネスシーンに身をおくことになると、大学生としての作法がいかに社会で通じないかを、痛感することになります。(P.144)
ここだけ切り取ってしまうとありきたりなのだけど、大学での学びと働くうえで必要なことの差を述べながら、どんなことをやっていけばよいのかを述べている。
本書の半分くらいは「はたらくこと」について述べている。論文の書き方だとか図書館の使い方だとか……確かに重要だし、説明されなければいけないことなのだけど、「普通」の大学生にとって重要になってくるのは「はたらくこと」であるのは否定しにくい。ある意味、本を読まなくたってアカデミックの作法は教えてもらえる部分はあるけど「はたらくこと」については、やっぱり自然にはわからないからね。
働いて生きていくことに力点があることは、やはり面白いものです。
当世書生気質的な?
本書はまさに現代の大学生の生活のために書かれた本だと感じる。
だからこそ、様々な立場の人が読むのが面白いだろう。
高校生が読めば大学生活のイメージがついて、進路選びに必要以上に悩まないで済むことになるだろうし、高校の教員が読むならば必要以上に職業を選ばせるような大学選びをさせないで済むようになるのではないか。
ちくまプリマ―だけあって気軽に読めるので、ゴールデンウイークにどうでしょう?