ならずものになろう

少しは教育について話してみたくなりました。書き続けて考え続けてみたい。

ならずものになろう

【書評】『「学校」をつくり直す」の熱量

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苫野先生の新刊が発売になりました。

「学校」をつくり直す (河出新書)

「学校」をつくり直す (河出新書)

 

個人的に意外な書名な印象を受けました。もちろん、タイトルは編集者の方がつけている可能性はあるので、外から読む分には推測しかできないのですが、他の苫野先生の本と違うなぁという印象を受けたのです。

自分だけ?

苫野先生の主張の総括的な一冊

本書は、苫野先生が最近、色々な場面で述べられていることをコンパクトにまとめられたものだと言えます。苫野先生のイベントには色々行っているので、そこで見聞きした話との共通点も多く感じます。

www.s-locarno.com

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要点としては

  • 学校が保障すべきものは何かを原理的に問い直す必要性
  • 教育や学校が変わるためには、方法だけでなく哲学が必要
  • 管理から「個別化・協同化・プロジェクト化」へ
  • 変わるためには、教員同士やそれぞれ異なる現場同士が「ねっこ」の部分から対話していくことが必要

といったことが大きな柱である。

新書らしく、具体的な事例に寄り添って、自分の主張を分かりやすく解説するという形になっています。近年、ニュースでも話題になったような事例について解説しているものも多く、教員も教員以外の方も読めるような形になっています。

もちろん、新書なので深入りには限界があるものの、これまでの苫野先生のご主張を俯瞰するのに分かりやすい一冊です。

語気の強さを感じる

冒頭で書名への引っかかりを述べましたが、その「引っかかり」は本書の各所にも見られます。それは何か。結論から言えば、苫野先生には珍しい「語気」の強さです。

本書も他の書籍と同じで丁寧語で語り掛けるような調子で書かれていますが、その文体(口調?)の柔らかさとは裏腹に、書かれている内容は結構、譲れない一線であると感じさせるような強さがあると感じる。

例えば、以下のような表現にそういう「強さ」を感じるのです。

だから大事なことは、さまざな"現場"の知見を、お互いに持ち寄り、交換し、活かし合うことです。「現場を知らずに……」という言い方は、その機会を自ら捨て去ってしまうことだと私は思います。(P.8)

「現場」についての言説に対する意見ですが、本書の冒頭に書かれています。この話が冒頭に来ること自体、結構、強い問題意識があるのだろうと感じます。

教育改革はこれまでにもさまざまな失敗や混乱を繰り返してきました。

でもわたしは、そこで鬼の首を取ったように、「ほら、やっぱりうまくいかないじゃないか」などと言うのではなく、むしろ、どのような条件を整えたなら、次の時代のよりよい教育を実現していくことができるかを考えたいものだと思っています。(強調部分は本文では傍点)(PP.97-98)

教育改革についての「あれかこれか」という観点で盛り上がってしまっている議論に対して明確に反論を述べている部分です。現状維持でもとりあえずやってみればいいという無責任な議論でもない、観点からの議論です。まさに「問いのマジック」に陥らないための提言。

あれも陳腐、これも陳腐、と言って切り捨ててばかりいても仕方ありません。教育(社会)学の世界では(少なくともその一部では)、今「〇〇力」と言うこと自体が恥ずかしいことのように考えられている風潮があるように見えますが、でもわたしたちは、子どもたちの「自由」とその「相互承認」の土台となる「力」は何なのかということを、やっぱり底の底から吟味する必要があるはずなのです。(P.113)

これもまたかなり踏み込んだ主張であるように感じる。

教育の歴史を紐解けば、「経験主義VS要素主義」の振り子であったことは学部の授業でも習うくらいに有名であり、そういう観点からの批判も多く聞かれている。また、今回の改革も揺り戻しが来ると現場の教員がタカを括っている言説も少なからず聞いているので、この書きぶりは結構、現場からも反発されそうな気がする。

ここでは、そうした批判に答えるほどに厳密に論理立てて書いているというわけでもないが、苫野先生の立場や主張はかなりはっきりと述べられているように感じる。つまり、「そろそろ前に進もう」という主張である。

一種の苛立ち?そこまでは言わないとしても、冒頭に「現場」の話が書かれるように、苫野先生が目の当たりにしている「現場」からの知見の表明、切実な主張のように感じられる。

本書のタイトルが『「学校」をつくり直す』という「今のままでは厳しい」というニュアンスを強く持つタイトルなのが象徴的です。これまでの苫野先生の本は

勉強するのは何のため?―僕らの「答え」のつくり方

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学校は、何をするところか?

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どのような教育が「よい」教育か (講談社選書メチエ)

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公教育をイチから考えよう

公教育をイチから考えよう

 

のように、「疑問形」や「呼びかけ」のように、歩みを「ここから始めていこう」というニュアンスのあると感じるが、『「学校」をつくり直す』というタイトルはそれよりも強く「 今、スタートを切るんだ」という強さを感じる。

この語気の強さは個人的には好感を持てます。押し付けという感じではなく「自分はこんなに楽しいこと考えているから早くやろうよ!」というような印象です。

本書の最終章が「エロス」(=ワクワク)が必要だと述べられて締められるのに見事に対応しています。語気は強いけど、その強さは「ワクワク」の押さえきれない前向きさに感じます。

もちろん、本書で各事例や言説に批判や主張を述べられている部分については、新書ということもあって議論として不十分に感じられる部分もありますが、それは、またどこかで論じられることでしょうし、本書の価値を下げるものではないと述べておきます。

参考文献も豊富ですから、まさに議論のスタート地点としての一冊ですね。

春休みに読んで次年度を考える

内容自体は一時間ちょっとあれば読み切れるくらいにコンパクトです。しかし、上述の通り、なかなか熱気のこもった一冊です。

この一冊をスタートに以下のような読書計画が春休みにはお勧めです。

シンプルな方法で学校は変わる 自分たちに合ったやり方を見つけて学校に変化を起こそう

シンプルな方法で学校は変わる 自分たちに合ったやり方を見つけて学校に変化を起こそう

 
クリエイティブ・ラーニング:創造社会の学びと教育 (リアリティ・プラス)

クリエイティブ・ラーニング:創造社会の学びと教育 (リアリティ・プラス)

  • 作者: 井庭崇,鈴木寛,岩瀬直樹,今井むつみ,市川力
  • 出版社/メーカー: 慶應義塾大学出版会
  • 発売日: 2019/02/23
  • メディア: 単行本
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いきなり『クリエイティブ・ラーニング』は厳しいので(笑)、こうやって段階を踏んで「ワクワク」していくのが本当におススメです。

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