ならずものになろう

少しは教育について話してみたくなりました。書き続けて考え続けてみたい。

ならずものになろう

【書評】高校の探究を始めるために

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高校でも探究が重要になる時代がやってくる。

実践と理論の往還が大切だと良くいわれますが、それを体現している書籍にはなかなかお目にかかれない。その意味ではこの本は分かりやすく、理論と実践の両面が解説されている一冊です。

はじめからわかりやすく

本書は研究者の理論と実践者の実感がバランス良く組み合わされて書かれている。各章の内容については先行研究を簡単に紹介しながら、どのような理論で探究学習が展開されているかが述べられ、合間合間に実践事例のインタビューが述べられている。

探究関係についてかじったことがある人であれば、おなじみの書籍や論文が紹介されていると言えるが、逆に「これからやれと言われて困っている」という人からすれば、どうして必要になるのかということが分かりやすく順序立てて説明されているため、大いに助かるはずだ。

キーコンピテンシー、21世紀スキル、21世紀型能力、教育の4領域のフレームワーク…などなどの学力論の紹介から始まり、デューイの理論から構成主義の紹介がされ、認知的徒弟制の解説がなされ……と、個人的な好みにも合っているので好印象だ。

民主主義と教育〈上〉 (岩波文庫)

民主主義と教育〈上〉 (岩波文庫)

 
「発達の最近接領域」の理論―教授・学習過程における子どもの発達

「発達の最近接領域」の理論―教授・学習過程における子どもの発達

  • 作者:ヴィゴツキー
  • 発売日: 2003/08/01
  • メディア: 単行本(ソフトカバー)
 
状況に埋め込まれた学習―正統的周辺参加

状況に埋め込まれた学習―正統的周辺参加

  • 発売日: 1993/11/01
  • メディア: 単行本
 

さらにそこから探究学習のデザインとして「問い」の重要性を挙げ、QFTの取り組みなども紹介される。

探究と「民主主義」の結びつきの重要性を所々に感じさせるような書きぶりでもあり、高校生の学びの主体性を引き出すような探究の在り方を提案している一冊であると言えそうだ。

先行研究リストがあることの価値

最近は探究バブルということもあり、色々なベンチャーのような企業が「探究」の教材を学校に持ち込んでくる。

それなりによく出来たワークブックや教師指導書を作っているものもあるのだが、割と気になるのが、そういう教材について意外と参考文献や先行研究のリストをはっきりとしていないものが少なくないということである。

たとえば、「なぜ探究が必要なのか」という説明について「社会の変化」としてAIの話などは当たり前に色々な本に出てくるが、そういう「社会の変化」を論じる根拠を挙げる本とそうではない本では信頼度が雲泥の差である。

使いやすく見えるブルームのタキソノミーみたいなものは、もはや本家の原型の意図を留めずに、変なところだけ用語を持ってきてワークとして取り入れられている…みたいなことが結構あるような感じがする。

酷いのだと、ルーブリックって言いながらただのチェックリスト、下手すると言葉遣いすらがたついているものがあったり……。まあ、言わないことにしよう。

その意味では、本書は簡易な紹介ではあるものの、先行研究はそれなりの数が紹介、言及されているし、きちんとしたリストがついているのでここから他の本を手に取ることが容易である。

生徒に探究学習で様々な知のつながりを体験して欲しいと願うのであれば、教員の手に取る本も知的な体系の中にあるものであってほしいものだ。

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