ならずものになろう

少しは教育について話してみたくなりました。書き続けて考え続けてみたい。

ならずものになろう

ことばの世界の入り口へ

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自分は国語科の中では割と少数派閥の日本語学分野を専門に大学、大学院時代に学んだ人間です。そんな日本語学クラスタに嬉しい一冊が発売になりました。

ポップな表紙ですが「ひつじ書房」(言語学・日本語学関係の専門書を扱う大手)の出版と言うこともあって、平易な語り口の本格派な一冊です!

ことばの探究学習へ

本書は「自由研究」として「ことば」を扱うためのてびきという体裁になっている。「自由研究」というと、どうしても理科の実験や社会のフィールドワークや調査がイメージされて、なかなか「ことば」という観点でやってみようという発想は出てこない。

どうしても小中高校の「国語」の授業の中の「ことば」というと「漢字」を覚えることだとかや意味があるのかがイマイチ分からないと言われる「学校文法」だとかをイメージされやすい。

しかし、本書はそのようなイメージとは異なり、「ことば」そのものに色々なアプローチをすることで、その面白さ、魅力を明らかにしてくれる一冊である。

本書の前書きには、以下のような著者の願いが書かれており、「こういうことを考えて欲しいなあ」と国語科の教員として非常に勉強になる。

この本は、言葉に注目していますが、私たちの身の回りには、当たり前だと思って見逃していることや、知っているけど気づいていないことが言葉の他にもたくさんあります。みなさんが少しでもそういった身の回りの姿やしくみに注意を払うようになってくれることを願っています。(P.08)

自分がどうして国語科教育の中でも日本語学をやっているのだろうかと考えてみると、「知っているけど気づかないこと」を考えてみることが好きだったからなのだと思うし、そのことが今、色々なことを考えるときに大切なことだという気持ちもある。

学校文法を国語科の授業でどのように扱うかということは考えることもありますが、そういう時に「メタ言語能力」が大切だろうという気持ちがあるのも、「知っているけど気づかないこと」を考えることを大切だと思っているからなのだと思う。

でも、なぜ、それが国語科の授業として大切なのかということが上手く言葉になっていかない気がしている。そんな自分にとってこの一文は自分を励ましてくれるような、そんな言葉に感じられました。

話が少し逸れたが、本書は「自由研究」を謳っている本だけあって、「研究の手法」と「研究のまとめ方」という点に非常に丁寧な説明が書かれている本である。この部分が小中学校の(場合によっては高校の)教員にとっては本書の最も魅力的な部分であるといっても良いかもしれない。

ことばを考えることは面白いんだよ、そして、色々と自分の世界を豊かにする力が身につくんだよ、そういう気分がする。

探究学習との関連で

最近は探究学習の注目度が上がっていることもあって、研究のまとめかたを指南するような本は多くなってきている。しかしながら、その方法論が比較的に難易度が高かったり、どちらかというと実験中心の理系に寄ってしまっていたりして、文系に近い形の研究のまとめ方はうやむやになっている節がある。

「何か薬品を買ってきて実験します」だとか「大がかりな実験装置を動かします」だとか、「なにかフィールドワークに行ってきます」だとか、そういうイメージとは違う「実験」つまりは研究の仕方があるということを、端的に示し、具体的な事例とともに示してくれたのは、ちょっと偏りが見られている学校現場にとってはありがたいなぁと思う。

「コトラボ」という副題で「実験です」と表紙にまで書いてある本に対してこういう書き方をするのはケンカを売っているようで申し訳ないと思うところもあるけど…(そもそも理系文系と分ける意味があるか?とも思う)。

色々な探究学習の事例を見てきているけど、SDGsだとかSSHだとか何だか遠くの大がかりな話が多くて、なかなか一番身近にあるはずの「ことば」を探究するという話を見ない(外国語の探究などは見たことある記憶はあるけど、本当にもっと身近なちょっとした表現の違いなどの探究は見ないと思う)ので、今後、この一冊がきっかけに少しでもやってみたいという子が増えるといいなと感じる。

ここからは勝手な予想ではあるけど、おそらく、「ことば」に関する探究は、半年や一年やあるいはそれ以上をかけて取り組むには「小さすぎる」と、つまり「それだけの長期間は続けられない」と思われているような気がする。それは、研究手法があまりよく伝わってこないということもあるだろうし、「ことば」を研究するイメージがないからなのだと思う。

だからこそ、こうやって具体的な手法がはじめからゴールまで示されると、こういうことに反応してくれる人はいるんじゃないかと期待したくなるのだ。

関連しそうな文献として

自分が日本語学に関心が強いと言うこともあって、本書を読んで、本書の「次に」手を出せる可能性がある、探究学習のための手がかりになりえる本を紹介したので、ここでも再掲しておこう。

おうふうの「ケーススタディ」シリーズはとにかく事例を考えようというコンセプトの大学の教科書なので、絶対に探究学習を「ことば」でやりたいなら手に取るべき本だと思う。

解答は載っていないので答えを知りたくなったら自分で考えるか、専門家を尋ねよう(おそらく、国語科の先生でも日本語学を専門にしていないと解答は難しい)。

通称「ここはじ」シリーズ。これも日本語学の勉強をしたいのであれば、大学一年生くらいの時に読んでいく本。難易度としては黄色い本の方が改訂がかかっていることもあってかなり読みやすくなっている。どちらも巻末の参考文献に日本語学関係の基礎文献がかなり掲載されているので、とりあえず、「ここからはじめる」ことで、日本語学の探究は始められると思います。

少し難しくなるけど

も良い本です。ただ、学校の探究で「談話」という発想までたどり着くのかな?とそっちに興味があるな。

こちらは大学のゼミや演習を想定したテキストなので、少しだけ難易度は上がる。以前少し紹介する記事を書いているので参考までに。

www.s-locarno.com

これは自分のただの趣味ですw自分が「敬語」(とくに謙譲語や丁重語回りのポライトネス)に大学院まで含めて六年間も関わっていたので……。コトラボにはメインの項目には待遇表現の話題は載っていないので、こういうこともあるよーというただの紹介です。ちなみに、敬語に興味を持つ生徒は一定するいると感じるのですが、ちゃんとした敬語の本よりもマナー講師の本や就活のノウハウ本みたいな本ばかりにアクセスしてしまう問題があるので、これはちゃんと定期的に「敬語」を探究するならこういう本がいいよ!と言いたい。

www.s-locarno.com

必ず大学で「役割語」の話題が出ると言及されるのが金水先生ですね。背伸びして高校生くらいの生徒が読むことが期待されるなぁ。

「国語というか言葉のしくみが気になる高校生」という言い方にとても納得します。

さらにもう少し広げるなら

研究者でもなんでもないタダの教員の自分が厚顔無恥に披瀝するものでもないのだけど、もし、自分が高校の探究で言語をやりたいという生徒がいるならば、以下のあたりの分野の本も紹介すると思う。

社会言語学の展望

社会言語学の展望

  • くろしお出版
Amazon

割と多くの生徒が興味を持つと感じている、方言や言語ストラテジーや言語獲得などについての外観が述べられている本。ちょっと難易度が跳ね上がってしまうのだけど、参考文献の豊富さや扱っているテーマがおそらく生徒の興味に合うものがあるのではないかと感じるので、挙げておきたい。

逆にこちらはグッと難易度を下げてみました。コトラボとは重なるテーマもあれば、コトラボにはない「ロボットが言葉を理解する」みたいな話も平易に紹介され、ケーススタディされています。あ、言葉の理解興味があるならこれも個人的には好きです。

でもねぇ……自分がやっぱり楽しくて仕方ないが

もはや英語で読まなくて良いのだけど!

あらゆる言語に共通する現象として「丁寧さ」を説明しようというその壮大さや論理の立て方にとても感動したのを覚えています。もう語り出すと止まらないくらい自分としては楽しいのですが、読むのは骨なので

こちらから読み進めていただけると嬉しいです。

付記

著者の松浦先生のTwitterはこちら。

twitter.com

なお、本書のサポートページが用意されているので、本書と併せて閲覧してみると良いだろう。

researchmap.jp

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