ならずものになろう

少しは教育について話してみたくなりました。書き続けて考え続けてみたい。

ならずものになろう

【書評】「『学び合い』誰一人見捨てない教育論」

久々にゆったりと時間を取れたので、じっくりと読もうと思っていた本を読む。

西川純先生の最新刊です。

『学び合い』の入り口から行く末までを一冊にコンパクトにまとめた本だと思いました。

※アイキャッチ画像は生成AIに『学び合い』の教室を描かせたものですが、これでは本書のイメージとはだいぶ遠いものがある。

本書のエッセンスは一言で

本書については様々な論点で、『学び合い』とは何か、なぜ上手くいくのか、なぜより「まし」なのか、どうして教育が変わるべきかということを論じている一冊だけど、個人的に、あえて本書のエッセンスを挙げるのであれば、次の何気ない一節なのだと思う。

『学び合い』は心でやるものです。その心のない人は実践できません。

(P.88より)

上記の引用部分はとある場面の、一つのセリフの一部分を抜き出したものである。そのため、引用の仕方としてはちょっと雑な仕方ではある。

ただ、個人的には本書が一冊をかけて言いたいことはこの一言に尽きるのではないかと思うところ。もちろん、本書では上記で引用した箇所以外にも同じようなことを丁寧に論じている部分は大いにある。

しかし、個人的に一番、印象的に、そして深く刺さったのが上記の部分である。

この引用部分は『学び合い』の実践を広めようとする校長や教育長に対する返答としてさりげなく書かれている。しかし、端的な書かれ方をしているからこそ、それが本質なのだとかえって強く感じる。

「心でやる」なんて書かれていると、心情的なものかスピリチュアルなものに思われてしまうかもしれないけど、徹頭徹尾、目指していることは逆である。

「心」ということを「覚悟」と読み替えてもよいかもしれない。教員自身の思いこみやこだわりを教室や子どもたちの集団に起こっていることと対峙したときに、きちんとアップデートできるかどうかという覚悟。個を離れていくという、ある意味で教員らしい仕事と感じられることから離れていく覚悟とも言えるかもしれない。

『学び合い』の語りのポイントとしては、通常の授業よりも遙かに長い時間軸と広がりを持つ社会観を持っていることが必要になると感じるが、そういうことを考えるためには、目の前のことに囚われる自分から離れていくことが必要になる。

ただ、そういう視点を持つことは感情的には難しく、非常に冷静にならないといけない。そういう冷静さは今の教員の仕事の仕方とはかなり食い合わせが悪いようにも思う。だからこそ、それを乗り越える感覚は西川純先生の言うとおり、イノベーター向けなのかもしれない。

「まし」を目指して

いくら合理的な実践であっても、自分一人の力や思想だけでは実践を変化させていくことは難しい。職場で実践をやってみようと思っても、授業が横並びで串刺しにされていて、何をするのかの権限を持つことができないこともあるだろうし、急に極端な振れ方をしたら、内部からのハレーションだってある。

合理的に考えて、そうした方が良いと思うのであれば、やはりどこかでしたたかになるしかないのだろうと思う。

上記の引用部分には続きがある。

強いなくても、周りの先生が成果を上げれば、変わる先生は変わります

(同上)

この一言に尽きるなと。子どもたちの成長を願う集団が、教員という集団であれば、したたかに粘り強く「まし」な実践を続ければ、影響を受ける人は受けるのだ(「変わる先生は」という言い方に変わらない人もいる、変えようとしても無駄という意図も感じます)。

『学び合い』の手法で急に方向転換すると、ハレーションが起こることもそれを回避するための方法も散々に提示されている。

 

 

所与の条件によって『学び合い』の実践を授業で行うことは難しいとしても、おそらく視点を変えれば『学び合い』を子どもたちに伝える術はいくらでもあるだろうと思う。

自分が『学び合い』の手法を用いた実践をやるかというと、おそらくそういうことはやらない。悲しいことに自分はどこまでも教科教育の人間であるので、単元を考えることを手放せない気がしている。

ただ、『学び合い』の目指す姿や、社会の形については語れることはあるのではないかと思う。そして、「誰一人見捨てない」ということについては、国語科であれば大村はまの「優劣のかなた」という言葉があるように、決して何か矛盾するようなことにはならないだろうと思うし、正々堂々と自分の授業、単元が「誰一人見捨てない」ことが目標になることは語れるように思う。

自分のことを手放せるようになるまでは、きっと馬鹿なミスもするのだろうなと思いつつも、自分の実践と『学び合い』の「心」は照らし合わせ続けてみたい。

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