ならずものになろう

少しは教育について話してみたくなりました。書き続けて考え続けてみたい。

ならずものになろう

哲学の価値の宣言、あるいは実践

Democracy

ゴールデンウィーク最終日。全く自分の生産性が上がらないまま過ごしてきてしまったところですが、とりあえず予告していた一冊は読み切りました。

 

 

個人的には期待感の高い一冊だったので読むことを楽しみにしていた。

新書で対談本なので新年度の激務で頭が思考停止している自分にはちょうどよいだろう…なんて油断して読み始めたら、全然そんなことなかった。

読みやすそうな装いをしながら、この一冊は本気で「現代社会」に対して強烈に問いかけを行っている一冊である。

アメリカがトランプ現象でこんな状態になってしまうことを見越していたのかは分からないけど、まさに今の社会で起こっている問題そのものを解像度高く切り取ったと感じられる。

新書と侮るなかれ、心して読み始めないとなかなか重い。

哲学は瀕死状態にあるという地点から

本書の一番の特徴としては、現代における「哲学」の立ち位置が瀕死状態にあるということから議論を始めていることにある。

…というか、新書の対談本でいきなりそこから行くの!?といきなりアクセル全開な調子で話が始まっていきます。

哲学が瀕死状態だからこそ、哲学が「思考の原理」であり、「思考のリレー」という本質を持つことの価値が逆説的に意味を持っていることにつながっていると本書は示すような形になっている。

シンプルな原理

本書で紹介されている「原理」に当たるものは片手で数えられる程度のにすぎない。そのくらいシンプルなのである。

しかし、そのシンプルな原理から、現代の哲学の瀕死に至るまでの話や現代社会に蔓延る詭弁的な言説への批判、そして現代社会の根幹である民主主義と資本主義の在り方、さらにこれから数百年の未来への展望と、新書とは思えない話題の広がり方をしていきます。

要所要所で竹田先生や苫野先生の哲学用語や概念の解説が入るという親切設計になっていますが、おそろしくテンポよく「こういう原理ですよね、だからこうなるのです」という勢いで進んでいく。

さらさらと読めない本

サラッと流して読むのであれば、比較的、専門用語は避けているし対談形式なのでサクサク読めるのだけど、本書の一つの提案として「哲学は確かめ可能性に開かれている」ということがあるので、そのことを念頭に置いて読んでいくと、「ここでこう言っていることは本当にそう言えるのか?」とイチイチ立ち止まって「読まされて」しまうのである。

しかもシンプルな原理で説明されているだけに、読者自身のレベルに応じて、どれだけ掘り下げるか選べてしまうのである。

自分の専門に近いところであれば、もの凄く引っかかり、掘り下げながら読むことができるし、自分があまり興味の無いところであれば「そういうものかあ」という論理の道筋を追いかけて読むくらいで読むこともできる。

自分がどの部分にどのように引っかかるか。試されているなと思う。

読書会すべき本

この本は一回だけ読んで終わりに出来る本ではないですね。

非常に議論に開かれている本だけに、一人で読んでいて、分かった気になって終わりになるのはよくないだろうと思います。

ぜひ、読書会をした方がよい一冊でしょう。

そのための技術として「本質観取」が本書の終章に紹介されているのではないか、そのようなことを感じてしまうのです。

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