
京都府教育委員会が、2026年実施の「大学3年生等チャレンジ選考試験」の実施要項を発表した。
大学3年生のうちに1次試験の一部または全部を受験し、合格基準を上回った科目は翌年度の採用試験で免除される、という仕組みである。
広がる「3年生選考」
この手の早期選考は、もはや珍しいものではなくなっている。
2023年にはまず東京都や千葉県、川崎市など8つの自治体が導入し、2024年には全体の約6割にあたる39自治体にまで拡大した。
横浜市の「大学3年生等早期チャレンジ!!」、神戸市の「大学3年生等早期チャレンジ選考」、大阪市や大阪府の「大学3年次前倒し特別選考」など、名称は違えど、いずれも大学3年のうちに筆記試験等を受けられるようにして、合格者に翌年の試験免除を与える制度である。
京都府の制度がやや特徴的なのは、1次試験の4科目(小論文・教職教養・専門・面接)を「選択制」で受験できる点だろう。
1つだけ受けることもできるし、すべて受けて最大で1次試験全免除を狙うこともできる。さらに、大学推薦による免除と組み合わせることもでき、制度設計としてはかなり柔軟である。
また、「大学3年生等応援プログラム」として説明会やオンデマンド講座、学校現場体験なども用意するという。
いわゆる「青田買い」の系譜
こうした早期選考の背景にあるのは、言うまでもなく深刻な教員不足である。そして、教員志望の学生を早期に囲い込もうとする動きは、実はもっと前から存在している。
東京都の「東京教師養成塾」は、大学生を対象に1年間の特別教育実習や講座を提供し、修了生は採用試験の1次選考が免除される制度で、すでに23期生の募集が行われている。修了生の合格率は100%ともいわれる。(※なお、現在はR9年に募集停止と出ています)
参考:東京教師養成塾(東京都教職員研修センター)
www.kyoiku-kensyu.metro.tokyo.lg.jp
横浜市にも「よこはま教師塾アイ・カレッジ」が存在し、大阪府にも「教志セミナー」と呼ばれる教員養成プログラムがあり、受講者には採用試験での優遇措置が設けられていた。
参考:よこはま教師塾アイ・カレッジ(横浜市)
いずれも、自治体が独自に養成プログラムを運営し、その受講者に採用上の特典を与えるという構図であり、教員版の「青田買い」と言ってもよいだろう。
もっとも、人材確保が急務である以上、こうした工夫がなされるのは仕方のない側面もある。民間企業でも経団連の就活ルール廃止(2018年)以降、採用活動はどんどん早期化している。
教育界だけが旧来のスケジュールに固執していられる状況ではないのだろう。
教育実習前の「採用」という矛盾
ただ、冷静に考えると不安になることがある。
教育実習は多くの場合、大学3年生か4年生で経験する。
つまり、3年生チャレンジ選考の段階では、まだ教壇に立った経験のない学生が少なくない。教育現場の実態を知らないまま「合格」が出てしまうことで、ミスマッチが起こる可能性はかえって高まるのではないだろうか。
※上記の採用事情については、単年で語るべきことではない点には注意。とはいえ、辞退率は高まっていくことなのだろうと思う。
採用時期を早めれば早めるほど、「合格したけれど、やっぱり違った」という辞退者は増える。
高知県が大学3年生にも2次試験まで受験可能とする施策を打ち出したのは、まさにその辞退率の高さへの対応だが、これは果たして根本的な解決になるのだろうか。
結局、予算の話をしなければ何も変わらない
教員採用の早期化や選考方法の多様化は、たしかに「やらないよりはやったほうがいい」工夫ではあるだろう。しかし、辞退者が出れば採用数自体は変わらない。席を早く押さえても、座ってくれなければ意味がない。
根本的には、教員の労働環境そのものを見直さなければ、どうにもならないはずだ。長時間労働、部活動指導の負担、保護者対応の困難さ…こうした構造的な問題に手をつけずに、入口のタイミングだけをいじっている印象が拭えない。
教員採用に関する話題を見ていると、どうしても小手先の対策に終始しているように感じてしまう。「予算(給与)は絶対に増やさないぞ」という熱意ばかり見える。
早期化も複数回実施も大学推薦も教師塾も、すべて「制度の工夫」であって「待遇の改善」ではない。
教員確保対策として早期選抜・免除制度の拡大が進んでいることは事実であり、教員養成段階と学校現場の接続が強まっているのも確かである。採用制度の動向を理解しておくことは、若手確保や学校組織運営に直結する重要なテーマだ。しかし、そうした制度面の整備だけで「人が来る」と本気で思っているのだとしたら、それはあまりに楽観的だと思う。
「教員になりたい」と思えるだけの労働条件の整備が不可欠なのだと、あらためて思うのである。




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