書評というより読書記録。
1日であっさり読みきりましたが、期待通りに楽しめました。
小さな謎の詰め合わせ
この本は米澤穂信らしい一冊だなあと読み終わって一番に感じました。
一つ一つの短い物語の中に出てくる謎は、人が死なない、大それたトリックもない、小さな世界の物語である。
中には、当事者たちの思惑を外れて、大事になりかけるような出来事も出てくるが、基本的には、それぞれの事件は後味の悪さを残しながらも、日常の一部として流れていくようなものである。
しかし、その繰り返しの結果は……。
悲劇であり、喜劇である。
その劇を演じるのは……。
寂れたノスタルジー
地方の寂れた世間や田舎に漂う薄気味悪さを描き出すのは、米澤穂信の得意とするところだろう。
本作も地方が消え去り行こうとする緩慢な衰退をかなり生々しく描き出しているように感じる。
人口が減り、消えていこうとする地域、その地域をめぐり、移住者と移住者を支援する役人と……さまざまな思惑が不協和音を鳴らすのである。
他人と他人が集まり、一つの世間を作ることがこれほど薄気味悪いことなのだと感じさせられる。不和の種はどこでも緩やかに芽吹くのではないか、そんな思いがさせられる。
甘くないミステリー
米澤穂信といえば「苦々しさ」としっかりとしたミステリーである。
本作もその米澤穂信らしさがしっかりと、色濃く出ている。
何かのカタルシスを得られるような甘さもなければ、ミステリーとしても甘くない。
じっくりと、細かい造詣まで読みこみながら味わえる一冊である。