※写真はイメージです。一切、関係ありません。
本日は千葉大学教育学部附属中学校のICT授業研究会に参加してきました。
千葉大学教育学部附属中学校では「一人一台」にタブレットを持たせる取り組みを行っており、今年度が3ヵ年研究の最終年でした。三年前から入学生にタブレットを持たせはじめており、今年度で生徒全員が持っている状態になったそうです。
このレポートではそんな学校で行われた国語科の提案授業の内容と協議会での話を簡単にご紹介します。
提案授業 メディアを読み解く ~動画ニュースを分析し、論理的・批判的思考力を高める~ 荒川恵美先生
単元の概要
「高齢者ドライバーの事故」について「NHKニュース7」、「報道ステーション」、「NEWS ZERO」の報道の仕方の違いを確認していき、メディアからの情報を批判的に検討する力をつけることを目指す。
授業の展開
本日の授業は、4時間配当の3時間目の授業でした。
今回の公開授業では、まず「NEWS ZERO」、「報道ステーション」、「NHKニュース7」の順に動画ニュースを見直していました。さらにそれまでの授業で、動画の中のナレーションやコメントの文字起こしを「事実」「プラスのコメント」「マイナスのコメント」などのように自分たちで分類した資料と突き合わせ、どのような違いがあるか、どのような意図で作られているかをグループで話し合いをしていました。
この話し合いの結果をタブレットで入力して、xSyncを用いて全体で共有。
さらに、その結果を踏まえて、自分がニュースを編集する立場になって、「公平性」について考えながら、どうやって番組を作るかということを個人で考えるという作業をしていました。
この後に、さらに別のニュース番組の解説を見てもらおうとしていましたが……今回はここで時間切れ。残念。
授業への感想
xSyncはいいなぁ……生徒たちが話し合った内容を即座に教員のパソコンや全体に映し出すことができるし、生徒の作成したものを個人のタブレットに配信することもできる。同じような機能としてClassiノートなどがあるけど、それよりも動作が軽快で使えるアプリが縛られないのもいいですね。
授業の内容としては、「盛沢山だなぁ…」というのが第一印象でした。単純に話し合いをしたり何か課題に答えたりという作業が50分の授業で2つ以上入ると、経験則的にかなり忙しいよなぁ…と思っているが、作業に加えて動画を視聴するという時間がかなり時間がかかっていたので、時間としてはやはし厳しいところだ。
でも、動画を用いた授業を積極的にできる背景には、タブレットで情報共有がスムーズになって時間が短縮されていることなどは大きいように思う。また、どうしたって動画を用いた授業は、今後、メディアリテラシーなどの育成という観点からも授業に入ってくることを考えたら、盛沢山をどうさばいていくかも考えないとなぁ…。
研究協議会
授業者である荒川恵美先生と附属中の先生方と研究協力者である千葉大学教育学部教授の寺井正憲先生を交えて行われました。
これまでの実践の一例
本の帯を作る
タブレットでPowerPointを用いて、本を紹介する帯を作る。
漢文に親しむ
タブレットでワードを用いて、好きな漢文を引用してしおりを作る。
短歌に親しむ
写真をタブレットで撮影してきて、短歌に言葉を組み合わせてポスターを作る。
写真から物語の創作
タブレットに配信した5枚の写真から3枚選び、ワードで2ページ程度の物語の創作。
名前を書かせないことで匿名の状態で取り組ませる。クラウドに提出させ、それを各自がダウンロードして共有。プリントを配布する手間がないのが便利。
タブレットの容量の問題…
授業を行っていくと情報が増えてくる。そのため、どこかでは過去の授業のデータを消去の必要が出てくる。だから、必要な情報、必要ではない情報を考えさせる指導が必要となってくる。また、その情報の取捨選択が結果的に、必要に応じて学びを振り返らせることに繋がる。
質疑応答の内容
日常的な授業においてタブレットや電子黒板が使いにくい。どのような活用の可能性があると考えているか。また、教科書・ノートとタブレットをどのように同時に展開していくか。
(回答)
・電子教科書やパワーポイントなどを必要に応じて使っている。
・一人一台だからこそ、こまめに様々な場面で活用させている。
・目的に応じて使う道具を変えていくことになる。xSyncはインタラクティブな活用ができることが強みなので、情報の共有などに使いやすい。
話し合いがスムーズに行っていたことが驚いた。どうファシリテートしているのか。話し合いのタイムマネージメントをどうしているのか。
(回答)
・話し合いについては、以前に研究主題だったこともあるので、話し合いの種類の違いなどを意識して指導している。
・日常的に、今行っている話し合いが何のための話し合いなのかを話したり、色々な場面で積極的に話し合いをさせるようにしていたりしている。
xSyncの使い方は?
(回答)
・意見を共有したいときに効果的に使える。本校では道徳で自分の意見を発表してもらうときなどに多用している。
特に国語科の学習において、どのようなメリットや変化があったか。また問題点や改善策は?
(回答)
・動画を用いた今回のような単元をできることは分かりやすいメリット。
・最初はタブレットを生徒は全然使えないし、発表のために書いてもらうものも見る側のことを考えていなかったりする。しかし、一緒に少しずつやっていくことで、きちんと使いこなせるようになり、発表も見る人を意識するように変化している。
今回の授業は「文字起こし」の資料での分析に寄っていたのでは?「動画」の情報を分析するような展開はあるのか?
・ニュースの動画が著作権の関係で個別のタブレットに配信することができなかった。本日のニュース動画の視聴は生徒にとっては四回目の視聴であるが、動画の分析のために動画を見られるブースを作れば、もっと動画を見させられ、動画の分析ができたのではないかと思う。
xSyncで配信した情報をちゃんと生徒は活用できているか。死蔵させていないか。
単元の展開で、協働の後の個の学習の時に、その単元で集積されてきた今までコメントを振り返させて、まとめを書かせるなどの活用させている。今まで以上に多くの意見を収集しておけるのが強み。
情報の取捨選択という話が出ていたが、一年間なり三年間なり継続して保存してポートフォリオしておき、大村はまの学習記録のように振り返りを行ったりはしていなか。
容量の限界があるので、全ての教科で使っている以上、一年間の全ての資料を集めきることはできない。どちらかといえば、取捨選択をして捨てさせることの重要性を指導しているし、情報の取捨選択をする際には必然的に学びを振り返ることが伴っている。
→学校として情報の保存メディアを充実させることに現在は力を入れている。特に生徒会活動などでも使われるようになっているので、どのようにフォルダを管理させるかなども指導している。
共同研究者・寺井正憲先生より
- 12月の答申の内容は全国学力調査の課題に対応して、情報を統合・整理する力などを強化する必要性が言われている。さらにPISA2015の結果、コンピューターの複数画面から取り出すことに課題があった……と言っている文科省の動向がある。
- 実際に、異なる情報を比較して、作り手の意図や表現の工夫を考えるという点には課題がある状況である。
- ニュースという題材は、フィクションの動画を扱うよりも実際の社会を扱っているので生徒にとっての意味も大きいし難易度も高くなっている。
- 情報が多すぎたのではないか。文字の情報を扱うよりも動画の方がはるかに多くの情報が含まれている。動画は興味関心を引けるが、情報量が多いことには注意が必要。何を狙いとして持ってくるのかを絞り込んでいくことが重要である。
- 話し合いのゴールが明確でないと難しい。比較的に今日の授業は「何を話したらよいか」が不明確であったことや扱う情報が多かったことで話し合いが低調だった。
- 次の国語の指導要領には「情報」というものは入るのではないかと言われているので、動画のような情報を扱う必要性はある。
- タブレットの活用や情報の蓄積という意味では、話し合いは消えて行くものだからこそ、動画にとっておくことに意味があるのではないか。
- 複合型のテクストを組み合わせて考えることに弱点や課題があるが、リンク一つで様々な資料に飛べるタブレットは活用できる部分はあるのではないか。
- 学習記録そのものだけの蓄積ではなく、学習で学んだこと・ノウハウを整理して蓄積していくような活用の仕方があるのではないか。
- 教えるべきことに「情報」が入ってくるとしたら、扱う内容が非常に増えてしまう以上、紙の教科書とのバランスをどのように考えていくのかが今後の課題になるのではないか。
全体を振り返って
生徒がタブレットを上手に使いこなしているのは2月という時期や、生徒たち自身がタブレットを使って2年目ということが大きいように思う。
話し合いにおいても、与えられた課題に限らず、自分たちで疑問を見つけた場合は自由にネットを使って調べものをしているのも印象的でした。
動画というメディアを教室で扱ったり複数の資料を見比べたりすることは、現状はやはり難しい面があるのは事実だ。こういう機材があると授業の幅が出ることがいいなぁと感じる。
一方で、精密機械であるタブレットの管理は想像以上に大変そうでした。これからどうしてもタブレットが用いられていくようになるのでしょうけど……本当に管理は大丈夫かなぁ?