自分は文学とはまったく縁のない人生を送ってきているので、国語の教員をやっていますが、さっぱり「文学」についての知識がありません。
ろくに近代小説を読んだこともなければ、海外の文学に至っては、もうほとんど読んでないといってもいいくらいに「文学」とは縁がない人生でした。
そんな自分が国語の教員をやっているのだから恐ろしいものでありますが、まあ、必要に応じて、勉強していかなければならないのです。
そうした勉強のオマケみたいなものではありますが、文学について書かれている本を見つけては生徒に紹介して反応を伺って自分の勉強を進めています(笑)
過去に生徒に勧めてみた「文学」の解説本を読み直したので、ここにそれらの本を紹介しておきます。
ま…「羅生門」を始める前のウォーミングアップです。
安心と信頼のクオリティの岩波ジュニア
この手の「学問」の入門編で信頼できる質があるレーベルと言えば「岩波ジュニア新書」です。
この本は中高生に対して行われた文学講義を口語調で編集したものです。
物語に驚けるとはどういうことかということを「詩」を使って解説するところから始まり、語り手や視点や作者などの問題やファンタジーの構造はどのようなものかなどを解説してくれています。
内容や語り口は平易なのですが、専門家が中高生相手に丁寧に解説しているものなので、予備知識なしで十分に楽しめ、その上、文学の重要な概念を押さえられる構成になっています。
文学を教えるときにいつも悩むのが「学習用語」としての文学の用語をどこまで伝えるべきなのかということなのですが、この本で紹介されているようなことは触れてもいいのかなぁという気がしています。もちろん、系統性だとか考えなければいけないんだけど。
中高生におススメに安心のちくまプリマー
こちらも、最近は中高生向けという意味では信頼度が高いのがちくまプリマー新書。
超入門というが、上の『物語もっと深読み教室』よりも踏み込んだ解説になっている。さらに一歩進んで読み方を深めたいということであれば『物語もっと深読み教室』のあとに読むと分かりがいいでしょう。
『物語もっと深読み教室』では研究史の話や専門用語を用いた分析の話は出てこないが、こちらは「ロシア・フォルマリズム」や「読書行為論」など様々な用語も出てくる。
ここまで踏み込んでしまうと、授業で紹介するのは趣味的になる気がしている。別に国語の授業でやるのは「文学」ではないとは思うのである。
ただ、やはり教材研究の観点としては持たなければいけないことであるし、興味のある生徒に勧める手札としては知っておかなければいけないことであると思う。
さらに踏み込んで批評理論へ
自分としては自分自身が文学についてチンプンカンプンであるので、あまり専門用語や文学まがいの国語の授業はやりたいとは思っていない。
でも、一方で文学に興味はあるけど、実際にはどんなことをやっているのかはよくわからないという生徒に対して、その入り口ぐらいは見せてあげたほうがいいかなぁと思うこともある。
まあ、自分では手に余るので、本を紹介するだけにとどまりますが、以下の本は関心のある生徒には勧めます。
批評理論入門―『フランケンシュタイン』解剖講義 (中公新書)
- 作者: 廣野由美子
- 出版社/メーカー: 中央公論新社
- 発売日: 2005/03
- メディア: 新書
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タイトルの通り、文学の批評の理論を『フランケンシュタイン』を丸々一冊、例にとってどのような理論なのかを解説している。
同じ一冊、同じ物語が様々に読みの可能性があるということに慣れない生徒にとっては、こういう方法論があることを気づいてもらうのによい一冊だ。
個人的に、廣野先生の本はわかりやすくて好みだ。
一人称小説とは何か−異界の「私」の物語 (MINERVA 歴史・文化ライブラリー)
- 作者: 廣野由美子
- 出版社/メーカー: ミネルヴァ書房
- 発売日: 2011/08/10
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視線は人を殺すか―小説論11講 (MINERVA歴史・文化ライブラリー)
- 作者: 廣野由美子
- 出版社/メーカー: ミネルヴァ書房
- 発売日: 2008/01
- メディア: 単行本
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どちらも英文学の作品を例にした解説だが、高校で扱われる近代小説を考えるときに、例えば「山月記」の語りについてや「こころ」の視線についてなどをどう扱っていくかを考えるときにヒントになった。
作家の側からの解説
作家が文学を解説している本も読んでいて楽しい。でも、種類や難易度や切り口で生徒に勧めるのにぴったりくるものを見つけるのは難しい。
最近では、以下の本を読んだ。
授業にそのまま使えるかといわれると、かなり無理があるが、「プロット」に着目して様々な実例を挙げて解説している本であるので、筋としてはわかりやすい。
創作や深読みが好きな生徒に対して勧めるのがよいのかなぁという印象。
あれっ?と思った人へ
上の紹介では、ベストセラーとは言わなくても国語の先生に好きな人が多い本を紹介していません。
まあ、上で紹介してきた本を読んでもらえれば、それらの本を読まなくても必要な概念はカバーできると思いますよ。
自分がそれらの本を勧めない理由としては、まあ、一言、その仕事が「不誠実」に見えるからですね。高校生に勧めるからには、専門外のことを不誠実に騙る本は勧めたくないのです。
問題は、その不誠実さを気づかないか無視して、子どもに勧める教員がいることだとも思っているけど…。