今年も飽きずに大騒ぎだなぁ……。
教育に対する関心の高さに比例するかのように学校現場への要求や風当たりは強くなるなぁとしみじみと感じる。
とりあえず結果そのものに目を通しましょう
新聞などでも報道はされていますが、結果そのものにも目を通しておきましょう。
全部の項目を逐一確認するのは大変でしょうから、結果概要だけでも見ればよいかと。
今回であれば「部活動と学力の関係に関する調査結果」や「自尊心と学力に関する調査結果」などがなかなかセンセーショナルなわけですが、実際、どんな数字が出ているのか、データを見てみるとよいでしょう。
また、今回は都道府県別のデータも公開になっていますので、一層、順位や競争が不当に煽られて報道されている感じはありますので、実際に都道府県別のデータにも目を通してみるとよいでしょう。
まあ、それほど分かりやすいデータではないし、数字自体から何を解釈するかは難しい話であるので、結局、マスコミを通して専門家の解釈に頼っていくことにはなりますが。
ただ、例えば順位について1位から47位まで序列がついてしまうと、感情的に非常に大変なことだと思うかもしれないけど、1位から47位の幅が得点率で5%未満だとしたら、そんなに神経質になるべきことなのか、むしろ、全国さまざまな条件があるのにもかかわらず、ほとんど均質な教育を保障できていることの意義を考えるべきなのではと思ったりする訳です。逆に、差があること自体を問題だというのももちろん悪くないです。ただ、自分で数字を確認してから、実感をもって話したほうが、他の人と議論するときも、議論が滑っていかないで済みます。
マスコミなどの反応
リンク切れになってしまうだろうけど、まあ、主だったリンクを貼っておきます。
分析 平成29年度全国学力・学習状況調査の質問紙調査 | 教育新聞 電子版
部活1~2時間で高学力?=関係を初めて調査-学力テスト:時事ドットコム
全国学力テスト 上位と下位の差縮まり学力底上げ進む | NHKニュース
【全国学力テスト】H29年度調査結果公開、秋田・石川・福井の好成績目立つ | リセマム
比較的、詳細に長く書いてあるのは、さすがNHKというべきでしょうか。
Twitterにもいろいろな意見が流れてきてますけど、読んでいても疲れる(笑)ので、まあ、このくらいで。
気になったこと
これらの報道などを踏まえて、以下に自分が気になったことをピックアップしてコメントしておきます。
部活動と学力への言及
今回、センセーショナルになりそうなのが「部活動と学力」の関係だ。
平成29年度において,部活動の時間別に平均正答率を⽐較してみると, 1⽇当たり, 1時間以上,2時間より少ない時間,部活動をしている⽣徒の平均正答率が最も⾼い状況にある。
ただ結果として「平均正答率が最も高い」と書いてあるだけであって、そこから何か因果関係を説明してはいない。そもそも、パーセンテージを出しているだけで、パーセンテージの差が有意かどうかも書いてないし、その差が何を意味しているかも説明していない。
なぜ、こんなことをわざわざ言っているのかというと、全国学力調査では「部活動」の時間だけではなく「スマートフォン」や「読書」など様々な項目についての一日あたりにどれくらい行っているかということを調査している。
それらの結果と比較して「部活動」についても論じるのが筋だろう。
例えば、「質問18」の「学校の授業時間以外に,普段(月~金曜日),1日当たりどれくらいの時間,読書をしますか(教科書や参考書,漫画や雑誌は除く)」の結果を見ると、
…と、まあ、エクセルで適当に作ったグラフなんだけど上のような感じになる。
これをみて「読書をたくさんやりすぎると学力が下がる!」なんて言い出したり「一日30分程度読書をさせよう!」なんて言い出したりするのが愚かなのと同じで、部活動の活動時間についても、あんまりセンセーショナルに言わないほうがいいでしょう。
自分としては、授業よりも公欠が優先されて授業を妨害してくる部活動にいいイメージがないし、部活動こそが教員の労働環境を劣悪にしている原因だと思っている*1し、むしろ部活動のせいで月曜の朝から寝ている生徒がいるのを見て*2「早く規制されてしまえ」くらいには思っているけど、それでも、今回の調査結果を使って「部活動を規制すれば学力に繋がる」だとか「1時間程度の部活動を推奨しよう」だとか言い出すのは筋悪だと思う。
ただ、面白いのは、そんなことは自分なんかが言わなくても文科省は百も承知だろうということ。その百も承知のなかで、あえてこういうデータだけを概要に載せてセンセーショナルに煽っているのは、……まあ、政治というものだろうね。裏にどんな意図があるのでしょう?
「主体的・対話的で深い学び」をそんなにやっているのか!?
今回の調査は、生徒へのアンケートだけではなく、教員にもアンケートを取っている。そのアンケート項目の中には、おおざっぱに言えば「主体的・対話的で深い学び」に関することを授業で取り入れて実践していますか?というようなものがある。
ご丁寧に、その実施率と学力結果のクロス集計まで出している。
そしてその「主体的・対話的で深い学び」の授業をやっているかどうかについて「やっている」という回答をした学校の割合を見てやっぱり笑った(笑)肯定的回答がどの都道府県も6割、7割を平気で超えており、自分の勤務している県についても、おそろしく肯定的な回答の率が高い(笑)
「ほんとかよ!?」と笑ったけど、このあたりの話は、以前にも書いているので、まあ、世の中と自分の考えていることの齟齬なのでしょう。
意地悪な言い方をせざるを得ないけど、この結果を見てしまうと「話し合いをさせる」だとか「発表をさせる」だとか、何となく活動しているということを「アクティブラーニング」だとか「主体的・対話的で深い学び」だとか看板をつけてしまっているんだろうなぁと思う。
そういう看板の付け方をしていると、世の中から手厳しく批判されるのは教員の方である。ちょっと、やっぱり自省的に考えておきたい。
過去問をやるのではなくてさ…
先に紹介したNHKニュースにこんな話題が書かれていた。
学校は今も“過去問”で対策
全国学力テストをめぐっては、ここ数年、各地で行きすぎたテスト対策が問題となりました。(中略)
この男性教員が務める西日本の小学校では、教育委員会から平均正答率を10ポイント上回るよう指示されました。このため学校では、学力テストの1か月前から毎日、放課後に過去の問題を繰り返し解かせ、できなかった児童には昼休みなどの休憩時間も対策に充てたといいます。
(http://www3.nhk.or.jp/news/html/20170828/k10011115781000.htmlより)
まあ、該当の教育委員会は何考えているのでしょうね?はっきりと取り締まられたほうがいい。もちろん、平均正答率を上げるために過去問をやらせるという対応を取った学校も筋が悪い。
ただ、全国学力調査の趣旨の一つに「日々の授業改善」ということがあるのは、事実である。過去問をやらせるというのは筋悪であったけど、出題された問題を踏まえて授業で言語活動を取り入れたり、
平成28年度 全国学力・学習状況調査 授業アイディア例:国立教育政策研究所 National Institute for Educational Policy Research
のような実践集を取り入れたりして対策するのであれば、意味のあることだろう。
本当は、得点率を上げるという目標よりも先にあるべきなのが、日々の授業改善であるわけで。得点率を上げろという指示が出てしまえば、呑気に授業改善だとか学校改革だとか言ってられなくなり、どうしたって小手先のことに走り出す。
学校の苦境よりも目先の点数
今回の「全国学力テスト」の結果について大阪府の松井知事は、「基本的にはまだまだだ。特に大阪市は、あまりにも大きな学力の格差がある。大阪市では、塾代を助成しているが、こうした制度を通して、家庭の経済格差が教育の格差につながらないよう時間をかけて取り組んでいくしかない」と述べました。
一方で、松井知事は、「テストの結果があまり人生に大きく関係しないとなると、児童・生徒たちがそこまでの思いで取り組まないということではないか」と述べました。
学力を単純な得点で捉え、学校で学力を伸ばすことや学校をよくすることをせずに、結果の悪さを子どものせいにする発言は、あまりに酷いものがある。
授業改善のアイデアなどは示されているが、それを実現するために支援するだけの仕組みがない。仕事に忙殺される教員が、このようなアイデア集を読むこともなければ授業を工夫して新しくしていくことも無理だろう。
しかし、そのような学校の苦境は世の中には理解されていない。
日本は、教員が長時間働いているのに、国民を満足させることができていないということになる。生産性の向上は、確かに課題であるといえよう。
とか
経済格差が学歴格差を生む原因は、公教育の質が低いことにある。
とか言われてしまうのが学校だ。
そんな中で、学校を支援する側に回るべき行政の方が、学校や子どもを締め上げるようなことを繰り返しては、いつかは限界を迎えるしかない。
そろそろ二学期がはじまります
学力調査の結果を見て、また明日からの自分の授業をどうするか考えるのが楽しくなりますよね。
本当は、こういうデータをじっくりと読むだけの余裕が「勤務時間内に!」あれば理想なのです。
表面的な論争を読んで分かった気になって授業をするのか、それとも拙くても自分でデータを見て、問題意識をもって授業をやるのかでは、ずいぶん意味が違うのではないでしょうか。