以前、生徒の思考が深まらないことに対してこんな愚痴を漏らしました。
そうしたところ、最近、レスポンスをいただきました。
今日は、そのレスポンスから自分の思うところを書いてみようかと思います。
提案についてのレスポンス
自分が書いた記事に対して、Go Fujitaさんからのレスポンスの全容については、リンク先をご覧いただければと思いますが、今回は「ヒント」として挙げていただいている内容について考えてみようかと思います。
1) 気軽に真似できそうな、身近な道具とそのシンプルな使い方を具体的に伝えること、そして、2) そのやり方だとなぜうまくいくのか、理由を推理しながら、それを自分にあった形に修正する機会を設けること。
二点については、非常に妥当なものだと思います。
「考える」ということをむやみに生徒に対して求めても、当然ながら上手くいきません。そもそも大人がこれだけ「深く考えるとは何か」と悩むものを「よく考えなさい」という形で提示するのはやはり無責任というものである。
そういうわけで、考えることを求めるのであれば、それなりに支援が必要になるのは間違いないのです。その意味で、「1) 気軽に真似できそうな、身近な道具とそのシンプルな使い方を具体的に伝えること」というご意見は理に適っているでしょう。
「考える」という作業が非常に「体力」を使う作業だけに、「気軽に真似できる」ような手立てを与えることや「道具の…使い方を具体的に伝えること」は非常に重要なことでしょう*1。
また、二つ目の「そのやり方だとなぜうまくいくのか、理由を推理しながら、それを自分にあった形に修正する機会を設けること」というのは、学習方略の知識を教えることと学習のメタ認知を促すことになりますから、理に適っていると思います。
思考を促す「シンキングツール」の存在
そんなご提案をいただいた時に、最初に思いついたのが、関西大学の黒上晴夫先生などがご提案されている「思考ツール」の存在です。
http://www.ks-lab.net/haruo/thinking_tool/short.pdf
実際に、このツールがどのように活用されているのかということについては、以下の記事や本が参考になります。
【特集】言語活動を充実させる シンキングツール活用で成果 ―IMETSフォーラム|教育マルチメディア
子どもの思考が見える21のルーチン: アクティブな学びをつくる
- 作者: ロンリチャート,カーリンモリソン,マークチャーチ,Ron Ritchhart,Karin Morrison,Mark Church,黒上晴夫,小島亜華里
- 出版社/メーカー: 北大路書房
- 発売日: 2015/09/24
- メディア: 単行本
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アクティブ・ラーニングの文脈でもう少し話題になるかと思っていたのですが、案外使い方が難しいようで、積極的に使われているような感覚はありませんが、たとえば「思考スキルからシンキングツールへの対応表」があるように、「どのように考えさせたいのか」「どのような力を育てるのか」という観点から、それなりに使い道があるように思います。
「気軽に真似できそう」で、「シンプルな使い方を具体的に伝えること」ができる道具としてかなり具体的なものとして「シンキングツール」を使うことはできるかと思います。
たとえば、探求型の授業の構成として、いきなり「問いを作ろう」というのは難しいことですが、「シンキングツール」の「質問・疑問マトリックス」などで、「頭の中で何となく考えていること」を明確化していくことで、「探求したい問い」を作り出すことができるでしょう。
自分が生徒の成果物を見て「思考の深まりがよくない」と考えた面に「一面的にしか評価できていない」ということや「関連付けて考えられていない」ということがありましたが、そのような問題についても「シンキングツール」で対応しているものがあるので、解決の一助になるかもしれません。
あと、最近、桐蔭学園が使っているということで気になっている「まなボード」とも相性が良く、使い勝手がよさそうだなぁと思っている部分もあります。
ただ、簡単にはいかない面もあるだろうな…
実際に、授業で利用していないので、これから書くことは杞憂というか、的外れになる可能性はあるのですが、簡単にはいかないだろうと思う点を述べておきます。
第一に、この手の「道具」を子どもに使ってもらうためには、その「道具」に習熟するための訓練を要することです。
費用対効果から考えれば悪くない時間の投資ではありますが、道具に習熟するための訓練をどう組み入れていくかは問題となります。
第二に、比較的「シンキングツール」は「汎用性」の高い道具であるように思えますが、それでも、「シンキングツール」を用いて身につけた知識や技能がその授業を離れた他の場面で転移していくかという点については楽観はできなかなあと思います。
「道具」の使い方が上手くなっていくことで、「思考」という面についてはかなり鍛えられるのだと思いますが、「教科固有」の知識や技能がどのように他の文脈でも使えるものに育てられるかが課題になるのかなと思います。
見通しとしては十分に広い
とはいえ、シンキングツールはICTとの相性や協働的な学習との相性が非常に良い。そのため、今後、十分に教育現場で使われていく可能性があるだろうと思う。
一方で、「これだけやらせれば大丈夫」と思われて、何も工夫をしないと、道具の習熟ばかりに走って、何のための道具だったのかということを見失うでしょう。
授業のデザインの一つや物を書く人たちのヒントとしてシンキングツールのように体系立てて整理されているツールは強力な味方になるでしょう。
*1:元記事の中での「道具」の意味は、実際の「筆記用具」の意味かと思われます。それに対して、今回の自分の記事では「道具」は筆記用具に限らず、「思考ツール」などの支援の手立ても含む意味で書いています。