ならずものになろう

少しは教育について話してみたくなりました。書き続けて考え続けてみたい。

ならずものになろう

生徒のニーズと授業の組み立てをどう考えよう?

Everyone

生徒によって「座学が好き」という生徒もいれば「グループワークがいい」という生徒もいます。どうしても現状の学校のあり方だと、生徒が自由に好きなほうを選んで……とはいかない部分があります。生徒一人一人のコメントや姿を見ているとどちらを選んで授業を考えればよいのか難しくなりますよね。どのように考えればいいのでしょうか。

一人ひとりをいかすという発想

昨日の記事にこんなコメントをいただきました。

ロカルノさま

いつも楽しく、時に悶々と考えさせていただきながら、楽しみに記事を拝読させていただいております。キムカンと申します。

今回の投稿が、今、私が直面している課題に似ていたのでコメントにてご相談させてください。

私は26歳の教育学を専攻している博士課程1年の学生です。今年度から学業の傍ら、専門学校で教鞭をとることになったのですが、限られた時間内で、出来るだけ多くの学生に多くのことを学んでもらえる授業のあり方について悩んでいます。

といいますのも、私は授業の最後に必ずその授業に関する感想や意見を求めており、そのコメントのリアクションがその都度まちまちなのです。大まかに、「座学を増やしてほしい」という要望と「グループワークを増やしてほしい」という要望に大別されるのですが、学生一人ひとりの好みの問題とどちらの手法がより学生の思考を促しているのかという問題とが峻別できず、残りの授業をどのように計画したものか、判断が難しいのです。

素朴な悩みをこの場をお借りして吐露してしまいましたが、もしよろしければアドバイスなど頂けないでしょうか。

すでにこのテーマで記事を書かれていらっしゃったらすみません。どうかご検討のほどよろしくお願い申し上げます。

 キムカンさん、コメントありがとうございます。博士課程にご所属なら自分よりもよほど勉強されているのでアドバイスできるか分かりませんが……テーマとしては非常に面白いので考えることを書いてみたいと思います。

生徒によって「座学が好き」「グループワークが好き」というのは、自分の教室でもはっきりと分かれます。それはクラスの雰囲気もありますし子どもたち自身の性格も大きく影響しているように感じます。ですから、単元を計画するときに最初に考えるのは、「どこまで自分が教えるか」「どこまでグループワークでさせるか」「どこまで一人でやらせるか」ということについては色々と思案をします。

ただ、結論としてはいつも「自力で頑張ってもらおう」「必ず交流させよう」と決断しているのがここ最近です。

アクティブラーニングが必要である理由から

その理由としては、アクティブラーニングをめぐる議論にあります。具体的には溝上慎一先生が以下のサイトで述べられているような考え方に近いです。

(講話)「あの子はおとなしい性格だから」は無責任!-何のための学校教育か?

(講話)高校生の半数の資質・能力は大学生になってもあまり変化しない-10年トランジション調査

特に二つ目の「10年トランジション調査」の結果である「資質・能力が変化しない」ということに対する責任は重く感じるところなのです。

実際に、生徒に対して「今日の課題は一人でやってもいいし、グループワークでやってもいい。とにかく時間内に理解できればいい」という形で決定権を委ねると、多くの生徒は自分の席から動かずに一人で課題を進めようとします。

つまり、今の学校という空間があまりにも「一人でやっていればいい」ということに偏っているし、「困ったときに誰かに助力を頼む」という経験が足りていないし、その方法を身に付けていないと言えそうです。

このあたりの発想は『学び合い』が強く問題提起している考え方でしょう。

資質・能力を最大限に引き出す! 『学び合い』の手引き ルーツ&考え方編

資質・能力を最大限に引き出す! 『学び合い』の手引き ルーツ&考え方編

 

『学び合い』をするかは別としても、「10年トランジション調査」などの結果から考えても、生徒がお互いに結びつこうとする機会を授業で保障する意義はあると思うのです。

もちろん、「自分はグループワークは気が重い」とか「タダ乗りされて面倒くさい」とか自分の授業設計の悪さのために、嫌悪感を持たせていることは反省……。

一人ひとりをいかすために

また、生徒の好みと授業の組み立てを悩んだときに、個人的に一番読み直している本がこれです。

ようこそ,一人ひとりをいかす教室へ: 「違い」を力に変える学び方・教え方

ようこそ,一人ひとりをいかす教室へ: 「違い」を力に変える学び方・教え方

  • 作者: キャロル・アントムリンソン,Carol Ann Tomlinson,山崎敬人,山元隆春,吉田新一郎
  • 出版社/メーカー: 北大路書房
  • 発売日: 2017/03/17
  • メディア: 単行本
  • この商品を含むブログを見る
 

以前にもこんな記事を書いています。

www.s-locarno.com

この本の基本的なコンセプトは、様々な手を尽くし、時間を掛け、先生自身ができる限り学んで…という教員の覚悟が試されるような、子どもたちに対してとにかく時間を掛けなければいけないということにあると感じている。

だから内容としては「生徒の見取り方」や「カリキュラムの立て方」「学習環境の作り方」など様々な話題が出てくる。

そのような中で、自分がやはり授業づくりという観点で重要かつシンプルで分かりやすい考え方だと思うのが以下の内容だ。

一人ひとりをいかすカリキュラムと教え方を分析する上で役に立つ三つの質問があります。教師は一人ひとりの何をいかしているのか? 教師は一人ひとりをどのようにいかしているのか? 教師は一人ひとりをなぜいかしているのか?

教師は一人一人をいかしているのか?(以下「何をいかす」と表記)

この質問は、生徒のニーズに応えるために教師が変更したカリキュラムの中身に焦点を当てています。

(中略)

教師は一人ひとりをどのようにいかしているのか?(以下「どういかす」と表記)

この質問は、一人ひとりをいかす授業が対処する生徒たちの特長に焦点を当てています。

(中略)

教師は一人ひとりをなぜいかしているのか?(以下「なぜいかす」と表記)

これは、学びの体験に変更を加える教師の理由についての質問です。より学びやすくするためですか?学びの動機づけを拡大するためですか?学びの効果を上げるためですか?(以下略)

(PP.105-106)

この観点を用いた授業の構想の例としては

教育科学 国語教育 2017年 03月号

教育科学 国語教育 2017年 03月号

 

の中で山元隆春先生が「詩」の授業を例に簡単に話していますが(PP.13-14)、この三つの質問の観点をもって授業を見直していくと、実際に授業を行った時の生徒の反応に振り回されることなく、自分の狙いや意図を検証することができます。

どうしても生徒の反応を見ると怯むことは多いですが、それは実は時間割のせいであったりするこもありますし、行事や部活動の影響を受けていることだってあります。正確に生徒の様子を見取りつつも、自分の意図も大切にしていくためには、明確な評価の観点があったほうが良いのだと思います。

理想を、実現したいことを言えば

ここまでの内容は比較的現実的な話です。実際に自分の授業でもやっていることです。

ここからは、少しだけ理想を述べますと、やはり究極的には「一斉授業」を基本とした「授業」という枠組みを取り払っていきたい感覚はあります。

つまり、苫野一徳先生の

教育の力 (講談社現代新書)

教育の力 (講談社現代新書)

 

などで提唱されている「学びの個別化・協同化・プロジェクト化の融合」という観点や、やはりPBL型の学び方を実現することだと感じています。

プロジェクト・ベース学習の実践ガイド―「総合的な学習」を支援する教師のスキル

プロジェクト・ベース学習の実践ガイド―「総合的な学習」を支援する教師のスキル

 
学びの情熱を呼び覚ますプロジェクト・ベース学習

学びの情熱を呼び覚ますプロジェクト・ベース学習

 

やはりここまで大掛かり変えることは難しいため、現状、かなり面白いなあと勉強中なのが以下の「責任の移行モデル」という考え方です。

「学びの責任」は誰にあるのか: 「責任の移行モデル」で授業が変わる

「学びの責任」は誰にあるのか: 「責任の移行モデル」で授業が変わる

  • 作者: ダグラスフィッシャー,ナンシーフレイ,Douglas B. Fisher,Nancy E. Frey,吉田新一郎
  • 出版社/メーカー: 新評論
  • 発売日: 2017/11/17
  • メディア: 単行本
  • この商品を含むブログを見る
 

「焦点を絞った指導」から「個別学習」までの、生徒と教員と「学びの責任」の割合の移行に注目して整理したものでありますが、決して「焦点を絞った指導」から「個別学習」への一方通行の考え方でないことや「支援」や「評価」などまでも含めて授業のデザインを考える際にヒントになる考え方であるなあと思っています*1

やはり、自分としては「プロジェクトベース」「ワークショップ形式」ということにこだわっていきたいのだと思います。ご質問いただいた「学生一人ひとりの好みの問題とどちらの手法がより学生の思考を促しているのかという問題」のどちらなのかということについては、「好みの問題を超えて、生徒をいかす授業としてプロジェクトベース・ワークショップ型の授業はできるのではないか」と理想論としては言いたいと思っています。もちろん、理想ですけど…ね。

お答えになっているか怪しいところですが、以上が自分の考え方です。

ご質問ありがとうございました。

余談

今の授業は

余談ですが、今の自分の受け持っている一クラスは、完全に「探求学習」であり「個別学習」です。テーマだけ与え、あとは自分たちで調べ、ポスターセッションで発表させ、最終的には研究論文でまとめてもらう予定です。

授業中の支援や評価はワークショップ型の授業の「カンファランス」の手法で行いますし、最終的な評価はポスターセッションのポスターや下書きの原稿や提出されたレポートをポートフォリオ的に見て総括的評価をしていくつもりです。

現代文の授業でこんなに自由にやっていいのか……と問われると自信はありませんが、生徒たちの興味と成長をいかしていたらこうなりました。いやはや、遠くまできたものです。

現在、見学者は募集中です(笑)。

質問に答えます

当ブログは慢性的にネタ切れを起こしています。

自分の勉強を兼ねて、何かご質問といいますか、聞きたいことを投げていただければ、自分なりのコメントは返していきたいなあと思います。もちろん、コメントに答えられないこともありますし、コメントとは関係ないことを好きに話して終わることも多いでしょうけど。

ですが、何か面白いテーマがあれば、ぜひコメント欄にご記入いただいたり、場合によってはサイドバーの問い合わせからご連絡ください。

*1:まだ、本を整理しきれていないので後日書評を書きますのでお待ちください。

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