ならずものになろう

少しは教育について話してみたくなりました。書き続けて考え続けてみたい。

ならずものになろう

【書評】誰でも自分らしさを認めるための一冊

今月の岩波ジュニア新書の新刊がよい。

「ジェンダー」と聞くと身構えてしまうかもしれないが、本書をよい意味で堅くない語り口で丁寧に書かれている一冊だ。

新書一冊分の情報量には限界があるが、その少ない紙面の中にできるだけ密度の高い情報が詰め込まれている。

特別な問題ではなく

「ジェンダー」の話題というと、どうしても特別なニュアンスがついて回るような印象がある。特に自分は「男性」であるため、ジェンダーにまつわる問題についての根幹的なところで無理解があるという自覚がある。

実際に、ジェンダーのことに触れると急に不機嫌になる人もいるため、かなり扱いとしては難しさを感じる。学校という場所であればなおさらセンシティブに考えるべき事柄である。だからといって触れずに済ませるわけにも行かない問題なのである。

本書はその意味では、非常に踏み込んだ定期をしつつも、色々な面に配慮された書きぶりだと感じる。

だからこそ、誰にでも負担感なく読むことが出来ると感じる(いや、そう感じるのは自分が強い立場にあるからな気もするぞ…?)。学校や教育の現場でも十分に起こりえる、実際に起こっている事柄について、丁寧に掘り下げているため、非常に学ぶべきことは多いと感じる。

この本を読むことをオススメできる人は、「女性」でも「男性」でもなく、すべての人なのだ。

ジェンダーという切り口はしっかりと鮮やかに存在しているが、それを離れても「生きづらい」ということを感じる人すべてにオススメできる本である。

「どう生きるか」という問題が根幹であって、すべての人の日常の中にある問題なのだ。

少しだけ他者に寛容になれればと

本書で論じられる問題は基本的にはジェンダーに関する事柄である。そのため、特に10代の子どもたちはしっかりと読んで自分の生き方やあり方と社会の関係について考えてみることは重要だろうと思う。

ただ、本書で取り上げられている問題が、問題として社会の中に存在してしまう原因の根本を考えてみると、ジェンダーに限らず他人の生き方に不寛容な人が多い社会のあり方自体の問題が気になってくる。

「自分の生きたいように生きる」ということは、少なくとも今の社会における「自由」の重要な要素であると思うが、どうしてもその「自由」が抑圧される場面が多いのである。

自分が何かに抑圧されている、とらわれていると気付くのであれば、それはまだ相対的には自由であるチャンスにめぐまれているのかもしれない。ただ、何となく自分が生きづらいと抱えているケースも少なくなし、逆に自分のあり方が他者の自由に恐ろしく不寛容であることに気付かない……そういうケースもあるだろう。

少しだけ、何か他者に対して寛容になれるチャンスはそう多くない。本書のような議論を読んで、自分に当てはまる何かを気付いたときに、少しだけ確信されるものがあるのかもしれない。

国語の授業はある意味で、こういう本と出会い、何かに気付くための営みだとも言える。こういう本に出会ったときに、一人で読み通せるだけの、そういう力があってほしいと思うのである。

余談:生成AIに聞いてみた

各生成AIに「家庭科の先生でお話を作って」と頼んでみると、AIによって「She」と呼んだり「Mr.」と呼称をつけたり「The teacher」と性別の分からない形で呼んだりと、かなり差がありました。どういうトレーニングのされ方をしているのかの違いだとは思いますが、生成AIがバイアスを強化していく例の一つとも見える気がします。

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