ならずものになろう

少しは教育について話してみたくなりました。書き続けて考え続けてみたい。

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【書評】指導と評価

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先日に書いた記事の続きである。

www.s-locarno.com

ここで紹介した『逆向き設計』の話と『資質・能力』ベースの評価の話の本が届いたので比較して紹介してみよう。

今回の話題の資料

今回は以下の本と資料について簡単にメモしておきます。

資質・能力を育成する学習評価

資質・能力を育成する学習評価

 

および、国立教育政策研究所から出された「「指導と評価の一体化」のための学習評価に関する参考資料」を並べて考えていきます。

www.nier.go.jp

「逆向き設計」の根本的な理解のために

先に、『「逆向き設計」実践ガイドブック』から紹介していきます。

この本は以前に発売されている、ウィキンズとマクタイの『理解をもたらすカリキュラム設計』(略称は『実践ガイドブック』に習えば『UbD翻訳本』のガイドブックという性質の本になっています。

このウィキンズとマクタイの本は、学習者中心に授業を考えようとするのであれば、絶対に参照したい一冊ではあるものの、A4サイズで400ページを超える大著であるので、なかなか自力で読むのは苦しい。おそらく大学院のゼミなどで輪番で読む、勉強会で輪番で読むというような気合いを入れないと読みこなすのが難しい本である。

やはり、そういう事情もあったようで、この『実践ガイドブック』が発売された背景には、ウィキンズとマクタイの議論の概念がわかりにくいという現場からの意見があったという旨のことが「はじめに」に書いてある。

そういう事情から生まれた本であるので、まさにウィキンズとマクタイのこの本を理解するためにはうってつけの一冊となっているのである。ウィキンズとマクタイの本の中で、重要な概念になっていながらも理解が難しく、キーワードばかりが上滑りして用いられやすい概念について(例えば「理解」や「本質的な問い」など)、翻訳本と対応させつつ日本の現場の実情を斟酌しながら説明されている。

内容的には

e-forum.educ.kyoto-u.ac.jp

で紹介されていることとも重なるので、もし本書が気になるのであれば、先に上記のサイトを読んでみるとよいかもしれない。そのうえで、興味があるのであれば『実践ガイドブック』→『UbD翻訳本』へと進めるとよい。

4月からの学校の運営のために

もう一冊の『資質・能力を育成する学習評価』の方は、典型的な文科省界隈の学習指導要領や各種答申などの解説本であり、学習指導要領などで挙げられている内容を現場で現実化するためのノウハウ集であると言って良いだろう。

内容的には、これまでの

2019年改訂 速解 新指導要録と「資質・能力」を育む評価

2019年改訂 速解 新指導要録と「資質・能力」を育む評価

  • 発売日: 2019/06/13
  • メディア: 単行本(ソフトカバー)
 
「資質・能力」と学びのメカニズム

「資質・能力」と学びのメカニズム

  • 作者:奈須 正裕
  • 発売日: 2017/05/29
  • メディア: 単行本
 

などを読んできた場合、新しい話題は実践例紹介くらいであろう。内容的には国立教育政策研究所の資料とも重なってくるので、国立教育政策研究所の資料の読みにくさを耐えうるのであれば、本書をわざわざ買う必要はない。

ただ、現場の教員や文科省の関係者が関わっているので、4月から実際にシラバスを作り直したり、その時々の学校としての目標を作ったり、教員研修の題材にしたりという意味では、非常に効率よくまとまっていると言える。

特に、高校では今後観点別評価が導入される予定だと言われていますが、その際にゼロからいい加減なことをやるよりも、よほどしっかりと意味のあるものに「真似」できるように仕組みやテンプレートを解説しているという印象である。

「逆向き設計」と観点別評価は同じではない

さて、この二つの「評価・指導」に関する本は、一見すると似ているように見える。おそらく、現場で生徒を指導するという面だけに絞っていうのであれば、どちらの評価観・授業観だからといって致命的な差が生まれるとは思われない。

ただ、この二つは割と根本的なところで目指すところ、授業や子どもについての考え方に差があるようには思われる。もちろん、新学習指導要領の方は、このウィキンズとマクタイの逆向き設計論なども踏まえて当然作成がなされているので、似ていても当然なのである。しかし、それでも二つのカリキュラム観には差があるだろう。

『実践ガイドブック』の方に、観点別評価の問題に少し言及している点もあるので、詳しくは内容を読んでもらいたい。

個人的におおざっぱに言うならば、「逆向き設計論」は求められている結果を吟味し、それを実現する「本質的な問い」に基づいて動的に授業改善や指導が行われるのに対して、学習指導要領の観点別評価の仕組みであると、評価規準が学習指導要領に示されている目標と内容から出発しなければいけない面があり、やや窮屈に感じる。そもそも観点別評価が学習指導要領の目標と内容の実現のための手立てである。

誤解を含んで大雑把に言ってしまえば、学習指導要領と観点別評価は逆向き設計で必要になる、求められる結果や「本質的な問い」を考える手間をショートカットし、あらかじめ用意しているような面がある。大外しはしないけど、抜群に最適化もされないだろうなという。

おそらく、実際に授業を考えていき、生徒の実態を見取り、必要な結果を考えていけば、学習指導要領から大きく外れることはない。学習指導要領は抽象的な文言であるからいくらでも解釈は出来るからね。だから、発想の仕方や実際の教室の運用ではどちらの考えでもあまり大きな差は出ないと思うし、問題にはならないとは思う。

ただ、どういう発想で子どもを見取り、授業改善にアプローチしていこうかという点において、微妙に差が出てくるだろうと思われる。

だから自分の結論としては「4月から今すぐに何かしたいというのであれば、『資質・能力』の本、長期的に授業改善を考えていくなら『実践ガイドブック』」という感じである。二冊を読み比べてみるのが一番良いとも言えるが。

当たり前が通用しなくなることに備えて

ここに来て、一層、コロナウイルス対策は厳しさを増している。このまま行けば、四月からの授業の再開は厳しいだろう。

そのときに求められることは、前例のない、生徒の実態に合わせたカリキュラムや授業を創造することである。教員の子どもに教えるということの専門性が厳しく問われる場面がやってくるのである。

そのときに、この「カリキュラム」や「評価」の根本的な議論は必ず必要になる。

思いつきや好き嫌いや入試対策レベルで教科書の内容を組み替えることがカリキュラム作成ではないのである。

他校の真似では済まされないだろう。地域によって生徒の実情や学びの環境は異なるのだから。本当に、子としては学校の、地域にある学校としての、子どもと向き合っている教員としての専門性が問われることになるのだろう。

そのときに備えて、この二冊あたりから読書を始めませんか?

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