小中では既に新しい観点別評価が、次年度からは高校でも観点別評価が実施されます。
高校では観点別評価が厳密には求められていなかったので、次年度以降からの現場の負担増と混乱が予想されるところですが……この夏の間に「評価」について理解を深めたいところです。
そのために、参考になる決定版のような書籍が発売になっています。
無理のない持続可能な評価のために
本書は新学習指導要領の観点別評価に対応して、実際の学校の現場でどのような授業、単元づくりをしていけば良いかということを解説した指南書である。解説のベースには「逆向き設計論」があり、学力の見立ての考え方や学力保障の道筋について詳述した本である。
その意味では同じく京大の西岡加奈恵先生の「逆向き設計論」の本と併せて夏の課題図書として読み込みたいところだ。
本書の特長としては、冒頭に指摘されているように「評価疲れ」してしまっている現場に対して、無理のない持続可能な評価の方法を提案するところにある。特に、総括的評価と形成的評価を区別することをかなり強調しており、本書で紹介されている実践例についても「形成的評価」の項目や見立て方と「総括的評価」の項目や見立て方をそれぞれ別に紹介、解説してくれている。
実際に「lecture」の部分と単元例、指導案例が掲載されているので自分で9月から実践する単元を真似しながら作ってみると言うこと、そしてそれを持ち寄って検討し合うということに向いている本だと感じる。
実際に、「ヤマ場」がはっきりとしていない(=何を評価するべきか、身につけたい学力のイメージがない)指導案が、評価疲れを起こしそうな泥縄式の記述になっているのと「ヤマ場をおさえる」単元となっているものを見比べると、かなり評価についての考え方についてはイメージができるのではないだろうか。
「ヤマ場をおさえる」ということが、教員がやりがちな何でもかんでも気になったことを評価してしまうとはかなりイメージが違うのだということが分かる。
よく、教育実習生が授業中に色々なものに気を取られて、自分の実力ややりたいことを発揮できないでいるのに対して、ベテランの教員が生徒を上手く「遊ばせる」ことで、授業を問題なく進めていく様子との違いに似ている。
評価を見直すとは
中学校編だと実際の考査の問題例も掲載や生徒の評価別の解答例も掲載されている(とはいえ、一題程度だけど)ので、評価の観点をどこに力点を置くのかということや、逆に何を評価しないのかということを考える手がかりにはなるだろうと思う。
授業づくりの手続きをかなり細かく説明していることもあり、評価を見直すと言うことが授業を見直すということ、授業を工夫するということなのだということがよく分かる。
表紙にあるように「シンプルな観点別評価で、学習改善・指導改善へ!」というコメントがぴったりだろう。
なお、観点別評価の一番の難敵が「主体的に学習に取り組む態度」である。本書を読むだけではやはり解決は難しいとは思うが、それでも1つの項目として紙幅を割いて説明してくれている(P.48-P.49など)。
加点的に評価する方がよいだろうというのが本書の方向性であるが、その際の着眼点やパフォーマンスの見取りの観点を解説してくれているし、また具体例も挙げてくれているので、そこから各学校の中で、教科内での検討が今後必要になってくるのだろう。
逆に言えば、これまでの評価が担当間で学力観や学びに向かう態度についての基準を揃えるということをあまり頻繁にやってこないで、考査の点数などばかりで考えていたとも言える。
今回の観点別評価が万能だとは言い難い(国語科としては思考力・判断力・表現力に三領域全部入っているので三観点で評価できるの…?など)けど、学力観や生徒の学びの過程を見直し、すりあわせていくためには必要な仕事だろうと感じている。
夏の課題読書に
そろそろ夏休みも折り返し地点である。
二学期のことを考え始める時期だと思うので、ぜひ、二学期の授業づくりを観点別評価を生かしてプロトタイプを作ってみるとよいだろう。
注意
なお、本書の論理編に当たる部分については、小中学校でほぼ共通しています。そのため、小中学校編が分かれていますが、掲載資料を除いて解説部分としては3分の2が共通しているので、買うのは1冊自分の校種に近いので充分だと思います。個人的には良い記述だったので、もっとそれぞれ小中に寄せて書いてくれたらよかったのにと残念には思います。解説部分の記述は同じだとしてもページ内で挙げられている具体例をそれぞれ小中の教材に変える…くらいでも良かったので。