昨日のレポートの続きです。
今日は、文部科学省:白井俊氏とOECD:田熊美保氏のジョイントプレゼンテーションの内容をレポートします。
基調講演 2030年の学び 世界の議論、日本の動向
今回の大会の一つのテーマが「2030」の時代の学びのあり方について考えるということです。この2030年の学びのあり方についての議論は、この大会で言い出しているだけではなく、すでに国のレベルでも、国際レベルでも議論されていることです。
その議論の一端を紹介していただけたのが今回の講演の内容です。
文部科学省:白井俊氏
1.コンテンツからコンピテンシー
PISA型学力やDeSeCoキーコンピテンシー … 2000年代初頭から21世紀型学力など、新しい学力の模索が始まっている。
コンテンツからコンピテンシーへ:従来の学力観からの転換→各国のカリキュラムの転換
しかし、DeSeCoがかなり概念として難しいものがあり扱いにくく、その反省や定義が出てからすでに15年経ったこともありそろそろ見直しの必要性が議論されている。
そこで現在「Education2030」についての議論が国際的に始まっている。
参考:将来、必要とされる力をどのように育むか 新しい教育のあり方を追求する“Education 2030” (PDFファイル)
→単純な「学力」のみならず、Well Beingを目指している点に特徴がある。
コンピテンシーの本質は「統合性」ではないか。ホリスティックな、全体的な力である。
前回のDeSeCoプロジェクトの時は日本は蚊帳の外であったが、今回は一緒に取り組むことが出来た。そもそも二回前の改訂のときに「生きる力」や「総合学習」などを取り入れているので、このEducation2030の方向性を先取りしていた。
Education2030ではAgencyという概念が鍵になるのではないか。
2.日本の教育課程におけるエージェンシー
エージェンシー(Agency)とはなにか
→自ら考え、主体的に行動して、責任をもって社会変革を実現していく力」であり、オートノミーでも主体性でもやや違う。責任と社会の関係で考える言葉ではないか。
日本の制度にエイジェンシーはあるか
→教育基本法第二条3項や学習指導要領解説総則編など……これまで注目されてこなかったとはいえ、概念としては存在している。
ブラック校則・重いランドセルなどの時事問題…問題の本質は生徒が声を上げていない、上げられる機会がない機会がないということが問題である。ルールを変えるように働きかけることが特別活動の本質ではないか。そこの働きかけに関わるのがエイジェンシー。
生徒のエイジェンシーと先生のエイジェンシー
学校の先生自体も色々なものにがんじがらめにされて、動けないことも問題。教員もエイジェンシーを発揮しなければいけない。
3.アクティブ・ラーニングの本質
「主体的・対話的・深い学び」の本質
→教師が教育専門家としての専門性を磨くことが、より重要。個人的に考えている教師の専門性とは、①児童生徒理解についての専門家②教科などの専門家の二点である。
4.AI時代の教育
新井紀子氏の本の紹介。今までの知識のあり方ではAIにとって代わられる。
ソサイエティ5.0における学校の説明。※例の学校3.0の資料を配布していました。
Classiなどのアダプティブラーニングやハイラブルというシステムによって、誰がどの程度発話しているのか可視化できることの紹介。
OECD:田熊美保氏
ぜひとも覚えておくべき3つのキーワード
- ニューノーマル(新常態)
- Student Agency
- OECDキーコンピテンシー2.0(社会改革コンピテンシー)
2030年に向けてVUCAな世界(変動、不確実、複雑、曖昧)
教えるのが簡単なものは自動化、デジタル化、外注化される
→求められるスキルが変化…知的なものであってもルーティン化されているものは、AIによって取って代わられる。
→世界規模の課題を自分事として考え、アクションを起こせる子どもを育てる。
→国内における国際化をできる人材を育てるために何が必要か。
→構造的な課題を浮き彫りにし、課題解決案を出せる人材は?
→地域、社会、国家を作る人材は?
1.ニューノーマル(新常態)
エコシステムの一環としての教育制度
共有責任
アウトカム+プロセス
子どもの発達は直線的ではない
説明責任+質の改善
学力+生活の質(Student Well-being)
多元的
トランスフォーマティブチェンジができるか。
2.Student Agency
「世の中に変化を起こす力を持つ主体」としての子ども
他者ではなく、自らの意志決定、行動、社会を作る主体
実は日本の取り組みとして高く評価されているプロジェクトがある。
→教育復興プロジェクト:OECD東北スクールプロジェクト
このプロジェクトで見せる、児童生徒学生の、目的意識・モチベーション学習意欲・社会変革意欲・自己効用感の高さ。
教室でAgencyを育めるのか→他国の先行事例では教科のレベルで実現している。
雑記・まとめ
実際に政策決定などに関わっている立場からの話が聞けたのは貴重でした。色々な権限を握っているところがどんな意志を持っているかを知ることで、今後の方向性を考える手がかりにはなります。もちろん、言い分をそのまま受け止めていくだけでは困る。
多少の緊張関係を孕みつつも、議論できるような土壌があればいいと思いますが……やや難しいところです。
さて、講演の内容については、話される内容自体に特別新しい内容があったこともなく、冒険もないので、特別、面白いというものでもないです。非常に安定的で悪く言えばつまらない。
しかし、色々な事例の紹介をしてもらえたので、上にもリンクを貼りましたが、時間をかけて資料を読み込んでいこうと思います。
ちなみに、Agencyですが、このプロジェクトとは異なる観点で、溝上慎一先生も「主体的・対話的で深い学び」との比較などを含めて議論をしています。
アクティブラーニング型授業の基本形と生徒の身体性 (学びと成長の講話シリーズ)
- 作者: 溝上慎一
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- 発売日: 2018/03/05
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この本の後半部分か
の内容です。
射程としてい範囲がOECDの議論と溝上先生の議論で差がある(働きかけるということや社会との関係性という点での違い)ので、個人的にはもう少し見比べて考えてみようと思います。
どうしても目の前のことに追われがちでありますが、学校や授業だけに閉じずに、世間の流れも理解できることを理解していきたいところです。外圧として唐突に現れたように感じたときには、もう何もかも決まってしまっていた……とならないためにも。