ならずものになろう

少しは教育について話してみたくなりました。書き続けて考え続けてみたい。

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【書評】移行措置を始める前に読みたい一冊『高校授業「学び」のつくり方』

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年度が終わります。明後日から新年度という恐ろしい落ち着かなさ……。

次年度から高校の授業については新学習指導要領の移行期間となります。

www.mext.go.jp

いよいよ「主体的・対話的で深い学び」の授業実践が名実ともに行われなければいけないことになるわけですが、周囲半径二メートルの観察だと、それどころでもない様子は見えており……教科書が変わらないとなかなか意識は変わらない。

とはいえ、自分自身の授業をバージョンアップさせていかないことには、目まぐるしく変化していく状況に取り残されてしまうわけで、4月になって自分の居場所が決まったのであれば、色々な工夫をしていきたいところだ。

そんな時に色々な角度から新学習指導要領を理解し直すのに、よい一冊が以下の本です。

高校授業「学び」のつくり方―大学入学共通テストが求める「探究学力」の育成

高校授業「学び」のつくり方―大学入学共通テストが求める「探究学力」の育成

 

比較的、国語科寄りではある印象ですが、国語に限定されず全体を俯瞰する内容となっています。各教科の授業事例まで掲載されており、4月の急場をまずは乗り越えるのに参考に出来る一冊であると言えます。

歩みを止めない

本書の表紙の「AI時代の人材を育てる」という言い方は、教員界隈から激しいアレルギー反応を受けそうな煽り文である。「人材を育てる」というと企業の下請けのような印象も受けるし、使える使えないで授業している訳でもないと。

とはいえ、様々な角度から変革が求められている状況にある学校と授業をそのままにしておくことも難しい。

本書で印象的であるのが、高校の現場のしんどさに寄り添いながらも、変革の歩みを止めないように、やれることをやっていかなければいけないことを求めている点である。

「高校入試によって輪切りにされた学校間の学力差は大きい」にもかかわらず、「どの高校のどの生徒であっても、進路を保障する」というシビアな使命を高校は負います。また、小・中学校に比べて学習内容が極めて多いことから、授業の中心軸に活動的な学習を据えるのがむずかしい側面もあります。(P.115)

高校における「アクティブ・ラーニング」を実施するのが難しいと感じられる側面に配慮した記述です。このような現状を認識しながらも、著者は

生徒の立場に立てば(中略)高校生活3年間はかけがえのない時間です。その学校生活の中心に授業があります。自ら学ぶ意義を実感できる授業は、生徒がかけがえのない高校生活を送るために欠かせません。(中略)彼らは、授業を通して学んだことを自分なりに咀嚼し、将来の進路に直接つなげていける素地をもっているからです。この素地を確かな力にかえていけるような学びの実現が必要です。これこそ高校教育における重要事項であり、高校における授業改善の必然性なのです。(PP.115-116)

と授業をきちんと真正面から改善することを求めている。

そのための方法論として、本書では「改革」の背景の素描を行いつつ、教員同士の同僚性を高めるカリキュラムマネジメントの技法の紹介や具体的な「アクティブ・ラーニング」の技法の紹介や評価の方法の紹介などを簡潔に行っている。

それぞれの内容としては、どうしても多岐にわたる議論をカバーしているため、やや物足りなさも感じるものの、移行措置という状況が目の前に迫って、何かを変えなければいけないと思った時に、助けになる一冊だろうと思う。

本質的には教員自身の主体性

今回の教育改革の要点としては「教員自身がどうしたいか」という主体性をは発揮することなのだ、というメッセージが本書からは伝わってくる。

自分がどういう授業をしたいかということを決める余地もあれば、自分で生徒を見取って何が適切かを考えなければいけない側面もある。また、一人では手に負えないくらい広汎な能力の育成が求められている以上は、個人ではなく教員同士で同僚性を発揮していく必要があるし、その時に、教員同士を同僚性をどう作る努力ができるのかということでもある。

学校の現場にいると「ぶっ倒れるくらいには忙しいぞ」という気持ちがあるが、一方ではこのままではジリ貧という気持ちもある。だからこそ、油断するとトップダウンで蔑ろにされやすい教員の主体性を取り戻し、身近なところから自分の仕事の改善を目指したいものである。

そういう思いを持った時に、伴走者として励ましてくれる一冊が本書である。

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