ならずものになろう

少しは教育について話してみたくなりました。書き続けて考え続けてみたい。

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【書評】国語科の「読解方略」と授業

昨日の過分なご紹介に応える形で、温めていた原稿を放出します(笑)。

kimilab.hateblo.jp

最近発売された国語科の授業づくりにおける「読解方略」をテーマに扱ったとっておきの一冊です。

著者の犬飼先生のminneから購入するとちょっとだけお安い。

minne.com

授業づくりの立脚点として

「読解方略」に焦点を当てて、どのような授業の文脈でどのように活用すれば効果的に国語の力を付けることができるかという一冊である。

本書が執筆された動機として、筆者は以下のようなことを述べている。

生徒の主体的な「読み」を大切にするべきか。それとも「文章」に対する「正しい」「読み」を大事にするべきか。国語教員を悩ませるこの問題は、かつて論争に発展したこともある難問である(中略)教師が生徒の主体的な「読み」を抑圧せず、生徒が自らの文章の重要な部分などを捉えて、それぞれの「読み」を更新していくことができれば、この難問は解決する。それには、どのような指導をすればいいのだろうか。

(P.2「はじめに」より)

このような問いに対する本書の回答が「読解方略」なのである。

本書で提案される42の方略とそれを活用する授業プランを読むと、生徒がどのように思考するのかということが鮮やかに思い浮かぶ。

国語の授業をどのようにつくるかという百家争鳴の議論に対して一つの力強いモデルを提案している一冊だと言える。

 「読解方略」を意識すること

「読解方略」という考え方は、新学習指導要領が「見方・考え方」を働かせることを重視しているために注目度が上がっているように感じる。

個人的な興味関心で言えば、ワークショップ型の授業を行う場合には、ミニ・レッスンで「読解方略」のようなスキルを教えることが多いので、意識して扱おうとはしているつもりだ。たとえば

の中で扱われるような一つ一つのスキルを意識的に扱っている。

「読解方略」の有用性については、本書でも研究成果が紹介されている犬塚美輪先生の研究が有名で、国語の授業づくりという意味でも分かりやすい。たとえば以下の本は、一般向けに書かれているが「読解方略」という概念になじみのない教員にとっても学ぶところが多い本である。

最近になって徐々に広い現場で意識されるようになってきたように感じる「読解方略」であるが、現実的にはまだまだ馴染みは薄いというのが一般的な認識のような気がする。

とはいえ、先に挙げた文献などのように「読解方略」を活用することの効果はかなり高いため、いろいろな現場の実践が期待されるところである。
そのような文脈を考えたときに、本書は「読解方略の実践」を現場に根付かせる役割を果たす一冊になると考えられる。

本書のもっとも優れた点は「授業アイデア」を教科書の定番教材を用いて提案している点である。

「読解方略」という概念に馴染みのない教員だとしても、具体的な定番教材についての勘所は持っている。だからこそ、「読解方略」を意識化して授業に組み込むと「このような授業が出来る」「授業がこのように焦点化することができる」「つけたい力が明確になる」など、「読解方略」を使うよさをイメージできるのである。

端的に言えば授業に使いやすいのだ。もしくは、今までも自分でやっていたことを「こういう意味がある」と意味づけしやすいのだ。

だからこそ、「読解方略」を用いた授業に一歩踏み込みやすいのだ。

方略と発問

本書が突出して優れていることは、中高の国語の定番教材について具体的な「読解方略」を用いた授業プランを提案している点である。

定番教材だからこそ、様々な先生方にとって挑戦しやすいし、定番教材だからこそ「これまでも行われていた発問」を「読解方略」という形で再度意味づけし直すことができ、授業の活性化までの道筋がよく見えるのだ。

面白いことに、授業で「読解方略」を組み込もうとすると、どうしても発問という形になる。すなわち「問いを持つ」ということが読解においては重要な意味を持つという、国語科の教員であれば納得しやすい結論にたどり着くのである。

授業づくりにおいて発問は永遠の課題である。

 

 

日国の授業づくりシリーズの中でも、この「発問」を他の本よりも「国語科の授業づくり」という観点ではかなり深いところまで示唆が行われていると感じていたが、こういうところに通じているのだなあと感じる。

授業づくりを「問い」という観点から見直し、いっそうの駆動を狙った本としては、松本修先生らの

 

 

このシリーズとも発想は通底しているように思う。また、これらの本との狙いの違いや共通点を見比べつつ、自分の授業ではどのような「方略」を取れるかを探ることができるのも面白いところだ。

あと地味ながらも「評論」「説明文」「古典」という他の本だと実はあまり「読解方略」という面からは提案が少ない分野についても、授業案が掲載されていることは重要なことだ。非常にこの本を使える人の裾野は広いのだ。

まとめ

教員に実際の行動を喚起する教育書は、間違いなく名著である。本書は本と授業までの距離が非常に近い。すなわち、間違いなく、今後の授業づくりによい影響を大きく与える名著だと言えよう。

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