ならずものになろう

少しは教育について話してみたくなりました。書き続けて考え続けてみたい。

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【書評】苫野一徳『ほんとうの道徳』

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読み終わっていましたが、なかなか書評を書く暇もなく来てしまった。

ほんとうの道徳

ほんとうの道徳

 

ちなみに、以下のサイトで一章をまるまる試し読みできます。

www.hanmoto.com

感想自体はすぐにツイートしていました。

自分の中の感想としてはこれ以上のものを練るだけの余裕が今のところないが、もう少し補足として内容を紹介してみよう。

吟味すべきは…

今回の本はいつも以上に具体的な実践に踏み込んだ提案が多い印象がある。

前著の『「学校」をつくり直す』についても、比較的、現場志向で具体的な方法や提案を含んだものだったが、今回の方がさらに具体的な授業や実践の話が多かったような印象を受ける。

とはいえ、方法のパッチワークに陥ることなく、提案される方法は、これまでも苫野先生が提案してきた「哲学対話」「学校・ルールをつくり合う」「プロジェクト学習」の三つである。しかも、この三つについても、「哲学対話」の説明に大部分を割いており、子どもたちの主体的な学びと本質を掘り下げることの二点を実質化することが重要なのだと伝わってくる。

どの実践も、丁寧にかみ砕いて説明されており、また、実践例の紹介も生徒の生き生きとした姿が見えてくるように描かれているので、実践したいという気持ちをくすぐられるが、本当に時間を割いてかみ砕くべきは、そこではない気がしている。

つまり、第Ⅰ部の「ほんとうの道徳」についての吟味と、第Ⅲ部の「市民教育への道」の二つの部がこそ重要だろうと思う。特に第Ⅲ部は一章のみで10ページ程度の短い分量であるものの、「これからの教育と学校の話」を踏み込んで書かれている。これまでの苫野先生の書籍と重なることはもちろん多いが、それ以上に学校の現場の具体的な現状を述べながら、その状況からの脱却を促していくような熱量を感じる。

いよいよ風越学園の開学が目の前に迫っていることもあり、「理想ではなくちゃんとやれるはずなのだ」という力説のような感じを受ける。

これまでとの違いを感じる?

これまでの『教育の力』などは、やはり原理からの話であり、実践の提案も用語説明の感が強く、ここまでの力説ぶりは感じなかった。

教育の力 (講談社現代新書)

教育の力 (講談社現代新書)

 

こういうのも変な話だけど、『教育の力』などは「キレイに」整理されているので、「うん、そうですね」となりやすい。そして、自分が当事者だと思っていない人には、どこまでの他人事としてスルーされていくのだろうと感じるし、実際、そういう様子を見てきた。「理想論やキレイごとを並べているだけだから現場には関係ない」といったような態度である。

だから、どこまでも交わらないで進んでいく印象であった。

しかし、前著の『「学校」をつくり直す』あたりから、苫野先生の方が「現場」についてかなり踏み込んできているように感じる。

「学校」をつくり直す (河出新書)

「学校」をつくり直す (河出新書)

 

www.s-locarno.com

こうなってくると、おそらく無視できないで大きく反論してくる現場も現れるだろうし、逆に全面的に支持する現場も現れてくるはずだ。

そうして議論や立場の違いが出てきたときに、改めて哲学の蓄積から、教育に向けて苫野先生が紡ぎだしてきた「原理」が意味を持ってくるのではないか。

「原理」がただの空疎なマジックワードと勘違いされ、または本当にマジックワードとしてしか理解せずに掲げるだけになっている……その根本原因は「原理」を必要としない現状維持志向にあるのかもしれない。

その意味では、こうしてここ最近の苫野先生が、「現場」へ言及しているのは、なかなか難しいバランスの中での、言及だなぁと思ったりします。基本的にそれぞれの「現場」は敵対関係ではない。しかし、波風立たせないで現状維持でよいという気質はあるし、内側からはなかなか動きが鈍い部分もある。外側からの刺激も必要である。

が……なかなか、そのバランスが難しい。敵対になってしまえば行きつく果ては無視である。

苫野先生の現場への言及がどのように受け止められていくのか、今後が楽しみでもあり不安でもある。だから、自分の感想としては冒頭のツイートのようになる。

理想を掲げて、進んでいくのが教育でしょう?

生徒に任せる、生徒を信じる、それを教育の現場ならばできると信じる……そういうことを大切にしたいと思うのである。

現実は厳しい。色々なことがある。でも、それが理想を掲げることを妨げる理由にはならない。

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